テラーノベル
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白く清潔な部屋の中に、
若井が持ち込んだ泥と、
涼ちゃんが漂わせる冷気が混ざり合う。
若井の握るナイフの先が、涼ちゃんの喉元で小刻みに震えていた。
「……殺してやる。涼ちゃん、お前さえいなければ、元貴は俺のところへ戻ってくるんだ……!」
「やってみなよ。
君が手を汚せば汚すほど、元貴は君を軽蔑し、僕は彼の心の中に永遠のトゲとして残り続ける……最高に愉快だ」
二人が互いの執着をぶつけ合い、
互いの視線に溺れていたその時。
背後から、衣擦れの音がした。
「……もう、いいよ」
その声は、驚くほど静かで、そして透き通っていた。
若井と涼ちゃんが同時に振り返る。
そこには、薬の副作用でふらつきながらも、壁を伝って立ち上がった元貴の姿があった。
「元貴!? ダメだ、まだ寝てなきゃ……」
若井が駆け寄ろうとする。
「元貴、僕のところへおいで。君を救えるのは……」
涼ちゃんが手を伸ばす。
しかし、元貴は二人の手を、
冷たい拒絶の眼差しで一蹴した。
そして、若井が呆然と落としたナイフを、
素早い動きで拾い上げた。
「……元貴? なんでそれを……
危ない、返しなさい」
涼ちゃんの声に、初めて焦りが混じる。
元貴は、自分の喉元にナイフの刃を当て、
ふっと笑った。
その笑みは、これまで見せてきた
どの表情よりも美しく、そして残酷だった。
「……若井は、僕を『子供』にして閉じ込めた。
涼ちゃんは、僕を『人形』にして飾ろうとした」
元貴の瞳に、かつての鋭い知性が戻る。
それは、絶望の果てに辿り着いた、狂気じみた覚醒だった。
「二人とも、僕のことなんて一度も見てなかった。……君たちが愛してたのは、僕を使って満たされる、君たち自身の『欠落』でしょ?」
「違う! 俺は本当にお前を……!」
「黙って、若井」
元貴の言葉に、若井は言葉を失う。
元貴は、ナイフをさらに深く肌に押し当てた。一筋の赤い線が、白い首筋を伝って流れ落ちる。
「……誰のモノにもなりたくない。
……これ以上、君たちの汚い愛で、
僕を塗りつぶさないで」
「待て、元貴! やめろ!! 何でもする、お前の言う通りにするから!!」
若井が泣き叫び、床に崩れ落ちる。
涼ちゃんも、その場に立ち尽くしたまま、
初めて「計算外」の事態に顔を歪めた。
「……さよなら。……僕を、返してもらうね」
元貴は、窓の外で降り続く雨を見つめながら、
一気に力を込めた。
真っ白なカーペットに、鮮やかな赤が広がっていく。
それは、涼ちゃんが愛した無機質な白を汚し、
若井が守りたかった平穏を永遠に破壊する、
あまりにも綺麗な色彩だった。
元貴の体が、ゆっくりと崩れ落ちる。
若井は叫び声を上げながらその体を抱き寄せ、
涼ちゃんは呆然とその光景をスマートフォンに収めることさえ忘れて見つめていた。
元貴の瞳から、光が消えていく。
けれど、その最期の表情は、誰にも支配されていない、たった一人の「自分」に戻った、晴れやかなものだった。
降り続く雨は、すべてを洗い流すことはない。
残された二人は、一生、この赤い記憶という檻の中で、お互いを憎み合いながら生きていくことになる。
元貴が命を懸けて手に入れた、
それが唯一の「自由」だった。
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け 〜 ち ゃ ん .
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コメント
10件
元貴ー!?!?!?!?!? 自分のタヒが解放される手段ってか…