テラーノベル
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電気はつけっぱなしだった。視界の端に、天井の染みが揺れて見えた。
立ち上がれないまま、一日が過ぎた。
時計は見なかった。
カーテンも閉じっぱなし。
何も変わらない部屋の中で、変わるのは自分の身体の痛みだけだった。
──熱が下がらない。
──背中の痺れが、鈍い痛みに変わっている。
胃のあたりがずっと冷たく、吐き気はあるのに吐けなかった。
「……起きろ」
ドアが開く。
晃司の声だ。乾いた、飾り気のない命令。
足音。
ゆっくり近づいてくる。
遥は目を閉じたまま、動かなかった。
「無視か。……具合悪ぃの?」
足音が止まり、ふっと笑う気配がする。
「ま、そう見えるわな」
次の瞬間、腹部に蹴りが入った。
「──っ……!」
声が漏れそうになり、喉で殺した。
呼吸が一度止まり、喉の奥で鉄の味がする。
「……返事は?」
「……っ、う……るせ……ぇよ……」
ようやく絞り出した声は、かすれていた。
反抗ではなかった。ただ、唇が勝手に言葉を吐いただけだ。
「そっか」
晃司の声が近づいた。
床が軋む。
そして、上から身体を押さえつけられた。
肋骨の内側に、再び鈍痛が走る。
「学校サボったって聞いたぞ」
「……っ、関係ねぇだろ……」
「あるだろ。どっちが当番かで、オレの“やり方”も変わる」
耳元で囁かれた言葉が、粘つくように残った。
「で、どうすんの。……オレの言うこと、ちゃんと聞く?」
無言で首を振ると、晃司は小さくため息を吐いてから笑った。
「じゃあ、壊れるまでやるだけ。──おまえがどうでもいいって言ってるんだからな」
その後の痛みは、数えることを拒んだ。
どの瞬間に悲鳴を上げたか。
どこから泣いていたのか。
覚えていない。
ただ、身体が、自分のものではないように動かされた。
皮膚の熱も、指先の震えも、まるで別人のものだった。
──思考も、消えていった。
ベッドの下、落ちたスマホの画面が光っていた。
通知には、「未読1」。
送り主の名は、「Kusakabe」。
それすら見えず、遥はまた、ただ目を閉じていた。
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