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(奏斗は、凪ちゃんのことが好きなんだと思う。)
目覚ましの音に目を開けると,あくびを一つした後に横を見る。すると俺の隣に寝転がり俺の寝顔を堪能していたであろう奏斗の姿が目に入った。ここは奏斗の家で今、俺は奏斗の部屋のベッドにいる。昨日の夜、脱ぎ散らかした俺の私服と彼の服は、奏斗の手によって片付けられたようで彼自身も仕事のためのワイシャツとズボンをすでに身に纏っていた。
「…、まさかずっとそこにいたの?」
「そんなに長い間いないよ。2時間くらい?」
「だいぶ居たね」
「はぁ、せらのご尊顔はいつまで見てもほんっと飽きないね」
「飽きると思うけどなぁ」
俺は呆れるように笑いながら、奏斗に近づいて軽くキスをした。
「おはよう、奏斗。」
「…ん…せら、おはよ。」
奏斗はどこか困ったように、しかし幸せそうに笑いながら朝ごはんの準備をするために立ち上がった。
「せらの為に今日は栄養満点奏斗特性スペシャル朝ごはん作ったんだぁ♪」
「えー奏斗のご飯不安だなぁ」
奏斗は俺と歳が変わらない。なのにここまで俺の兄貴面をしているのは本当に謎である。
「お弁当も作ったからねぇ。ふふっ、今日はお昼、別々だから会えないけどせらが僕の作った食事で構成されてるって思うとゾクゾクしちゃう♡」
「冗談でも大分気持ち悪いよ、奏斗。」
奏斗がテーブルの上に置いた食事に口をつけながらそう言う。この人は俺のことになると調子が狂うのは知っているけれどこうして側で過ごす時間が増えてからはその気持ち悪さに拍車がかかってる気がする。
(……まぁデレるのが他のひとじゃない分、別にいいけど。)
俺一人が我慢していれば、済む話なのだ。
この人は自分の大切にしているものはドロドロに甘やかすからそれが途端に手元からいなくなるとおかしくなってしまう。
奏斗の生粋のメンヘラ気質には困ったものだが、それが彼なのだからもう仕方ないと割り切っている。
「奏斗。」
「ん?」
奏斗はこちらに満面の笑みで振り返る。奏斗が俺だけに見せる、その特別朗らかな表情で。
「今日も、家に行ってもいいよね?」
「……今週せらいっぱい来てくれるねぇ。でもそろそろ家に帰った方が」「嫌なの?」
狙って小首をかしげると、奏斗は胸を押さえながら「ゔっ」という美しくない声を出して搾り出すように言った。
「いいよ! いつでも来て!!」
奏斗は俺に嫌われたくないので、かなり言う事を聞いてくれる。
それは当然で、当たり前なのだ。
(だからこそ、俺がしっかり奏斗を愛で縛っててあげないと)
この人が暴れてしまわないように、しっかりと手綱を握っておくのだ。
……彼が、アキラの元へ向かわないように。
ーーー
奏斗とセラフの付き合いは寄宿学校の頃からだった。桜が満開の春。ブレザーを身に纏った俺は毎日を自由に、平穏に過ごしていた。
クラスが違うためちらちら廊下をすれ違うだけの関係、だが運が良ければ奏斗とバッタリと会うチャンスもある。今日はその日だった。
奏斗が「あっ。」と小さな声を出したので、挨拶をすると小さく返ってきた。まぁ色々あってお互い裏社会の人間だとは分かっている、クラスメイトを通して奏斗の話を聞いたり奏斗と話したりするが顔見知り程度な訳で。気まずそうな顔を見るとこちらとしてもなんて話せばいいのか分からず通りすぎることしかできない。彼が俺に拒まれるのが嫌なように俺もまた、奏斗に拒まれることに免疫がないのだ。
そんな俺達の様子をじっと見定めるように隣にいたのは見慣れない紫の髪で綺麗な顔つきをした青年だった。
一瞬恋人かなと思い、ちくりとした胸に気づかないフリをしていると、袖を初対面のその子に掴まれた。突然のことだった。
「ねぇ、お前が『セラフ』?」
「ぇっ、…あ、はい。そうですけど。」
「ちょ、ちょっと、雲雀何やってんの!」
エッジを効かせた声の男。幼さの残る愛らしい顔つきをしているが目つきがやけに鋭い。
「ふーん、これが奏斗に変に干渉してくる、あの『セラフ』か。」
雲雀、と呼ばれた男はそんな棘の含んだ言葉を俺にぶつけながら、身体中を舐め回すように見て、言った。
「…奏斗に変に気を持たせるくらいなら、とっとと失せろよな。」
それは奏斗に聞こえないほど小さな声だった。
その瞬間、雲雀はものすごい勢いで後ろに引っ張られると、グーで頭を叩かれていた。……痛そう。
「ひばりぃ!お前せらを虐めてたらもう絶交だからな!?」
「え、それはヤダ!俺たち親友だろ〜?!」
「だったらバカなことするなっ、返事は。」
「……はぁい。」
まるで駄々っ子を宥めるようにいうと奏斗は一瞬こっちを見て、そして気まずそうに「じゃあ、せらもまたね。」と言った。
どうやら自分は気づかない間に彼の友達にも迷惑をかけていたらしい。申し訳なさとそれと同時に奏斗も自分と同じように仲良くしたいと思ってくれていた嬉さから考える間もなく声をかけた。
「奏斗。」
久しぶりに、彼の名前を呼ぶと、奏斗の体の動きは途端に停止する。
「今度はクラスメイトとか挟まないでちゃんと2人で話したい。……ずっと、そう思ってたから。」
おずおずと伝えると奏斗は呆然として、それからそりゃあもう花が咲くという表現が正しいくらいの満面の笑みをこちらに向けた。
「お前ってやつはぁ!!」
一瞬で奏斗は俺の胸に飛び込んで、すりすりと頭に頬擦りをした。
奏斗のそんなぐしゃぐしゃの表情を見ていたら、先程までのくすんだ気持ちや雲雀に言われた皮肉も何処かに飛んでいって小さく呆れたため息をした後に、内心ほっとした。
(この人は、俺がいないとダメなんだ。)
その後、駄々をこねる雲雀へ寮に帰るように奏斗が言いくるめて初めて2人で喋った、 とても、懐かしい穏やかな気持ちになった。
その日から毎日来るようになった長文のLINEに返信して、時々お昼を2人で食べたりするのが今まで何も楽しみもなかった俺の心待ちとなる、奏斗といると満足感と幸福に包まれた。
……だから、自分の中で何が不満だったのかよく分からなかった。
だって、自由も得て、奏斗と丁度いい関係になって、学校に入って初めて心からの友達にも出会えたのだ。
まさに順風満帆、何も不満はないし毎日は驚くほど楽しい。
そう思っていたはずなのに。
ーーー
あれは俺が2年の頃、奏斗は俺の部屋に寝泊まりすることが多かったのだがその日はどうも様子がおかしかった。
ことあるごとに俺に絡んでは世話を焼き、変に年上ぶるのだ。こう言う時の奏斗は大抵嫌なことがあるくせに相談ができないから世話を焼くことでストレスを発散しようとしている。
そしてそういう時は何を聞いても変にはぐらかすので大人しくされるがままに世話されることにしている。さすがにこの歳で奏斗に寝かしつけられる状況には困ったが、彼自身それくらい参っていると言うことだろう。
俺には分からないが、生徒会の仕事がとても忙しいのだろうと朝早く起きて俺にお弁当を健気に作ってきた奏斗を見て思った。リビングで渡されたお弁当は紺色のお弁当袋に入っていた。どうやら自分の分のお弁当袋をいつの間にか買ったらしい。
「…奏斗、ちゃんと寝た?」
「わっ、え、せら心配してくれるの?んふふ嬉しい、大丈夫、ちゃ〜んと元気だからね?」
ソファで寝ていたと言っていたが、俺がトイレで目が覚めてリビングに行った際もずっとなんらかの仕事をしていた。奏斗は基本生活リズムがしっかりしているはずなのでここまで仕事に打ち込むなんて異常だ。
「そういうのいいからさ。最近ずっと様子おかしかったじゃん。何かあったらちゃんと教えてよ。」
「平気平気。それよりせらの方が心配。お昼なんて買ってきた菓子パンとかで済ませちゃうからさ。ふふん、ありがとうって涙で抱きついてきてもいいんだよぉ。」
正直作ってもらえるのはありがたかったりするので、素直に感謝を述べた。
「ありがとう、奏斗。」
「いいんだよぉセラ。」
奏斗は緩み切った表情でお弁当を手渡す。どうやら話してくれるつもりはないらしい。奏斗の顔をじっと見ていると、後ろの首筋の方に赤い跡が見えた。
「あ、奏斗、そこ虫刺されてるよ?」
「え?」
「ほら、ここ。」
俺がその部分を触ると何か堪えるように体を震わせた奏斗が一歩下がって距離をとった。
「わぁ、いつ刺されたんだろう。あとで薬塗っとかないとね。」
「薬箱にあるから、好きに使ってね。」
「う、うん、ありが、と。それより今日は午後から雨ふるらしいから傘持って行きなね」
「あ、そっか。あれ?折り畳み傘どこおいたっけ?」
「ほら、僕の持ってて。」
「ありがとう。」
もし犬の耳と尻尾が付いていたら信じられないくらいパタパタと左右に振っているだろう奏斗を見ながらいつもこんだけ笑っていれば友達だってもっと多くできるのにと考えた。
「奏斗ってさ、結構可愛いよね。」
「…………………へ!?」
「もっと笑った方がいいよ。」
「なっ。」
「じゃあお弁当と傘ありがとう、行ってきます。」
顔を真っ赤にして固まってる奏斗を置いて、学校に行くことにした。ドアを閉めた後、部屋の中からゴロゴロガッシャーンと落ちる音がしたけれど、気にせず学校に向かった。
薄い違和感を感じ始めていたのはきっとこの頃だったと思う。時々ぼーっとすることや俺が触ろうとするとビクリと体を震わせることに気づいたのは。けれどその次の瞬間には嬉しそうに俺の手を取りいつものように兄ムーブをかましてくるのだから気のせいだと思っていた。
………そう、あの時までは。
それは3年の春、部活から帰ってきた俺がリビングのソファに寝ている奏斗を発見した時だった。少し遅くになっていたし、奏斗も最近では後輩ができて仕事が忙しくなっているようで疲れているだろうと、クローゼットから布団を取り出して彼に被せた。これ絶対寝不足だ。
かけようとした拍子に、彼の服が捲れてしまった。白い肌が見えて申し訳なく思いながら急いで直そうとした時に鬱血痕が見えた。一瞬虫刺されかと思ったが、嫌な予感がして、少し服を捲るとやはり他にも胸やら腹やら首の見えないところにポツポツと鬱血痕が見えた。肩には噛み跡すらある。
(キスマークだ。これ。)
そう思ったら今まで感じたことのない感情がドバッと出てきて、気づいたら奏斗のズボンのポケットに入っていたスマホに手を伸ばしていた。
いつもであれば他人のスマホを触ることは悪いことだと分かってはいるが、今はそうすることが、自然だと思ったのだ。
青、月の書かれたスマホケースの彼のスマホを手に取って、なんとなく俺の誕生日を入力すると、開いた。
単純過ぎて不安になる。
そうしてLINEを開いていくと、一番上に『しっきー』と書かれた連絡が開かれた。
あがる心拍数を抑えそこを開いていくと、こう書かれていた。
『乳首でイく奏斗すっごくエロかったですよ、またえっちしましょうねぇ』
日付は昨日の夜9:00
ほんの3時間前に遊んでから、俺の所に来たらしい。スクロールして過去に遡ると奏斗と冗談のようなやり取りをしていることから察すると仲は良さそうだ。
無言のまま、自分のスマホの録画アプリを開くと奏斗の画面内容を移して、スクロールしながら録画した。
ここの情報には待ち合わせ場所やいつ、何回会ったのか分かる情報の山だった。
全部撮り終えてから奏斗の方を見ると、彼は幸せそうにまだ夢の中だった。
(気持ち悪い。)
奏斗に対して素直にそう思った。
俺にはあんなに好き好き言っておいて、いざ蓋を開けてみたら他の人とヤれちゃうんだこの人は。しかも男と。冷たい目で奏斗を見ながら今度は口に出して言った。
「気持ち悪いなぁ。本当に。」
ーーー
学校の帰りにカフェで調べた限りではどうやらこの『しっきー』というのはあだ名らしく本名は四季凪アキラというらしい。
LINEの文章から推察するに、どうやら奏斗は彼とは別の場所で出会ったはずなのに偶然、同じ学校で再会を遂げたようだった。
「そろそろか」
俺はスマホで時間を確認するとカフェを出た。
宵の口の赤紫に染まる空をにそびえるビルを背に歩き出し、その向かった先には調べたまんまのアキラがいた。
「四季凪アキラさん、ですよね。」
「人違いですけど。」
紫の目をした男はこちらを一瞥すると、間髪を入れずに断った。これは相当ナンパ慣れしていると見える。
「俺、奏斗の友達のセラフっていいます。」
「…………せら、ふ。まさか……」
彼がハッとした表情で取りやめた言葉を俺は見逃さなかった。
「良かった、やっぱり合っていたみたいですね。」
俺は得意の笑顔で笑いながら、一歩前に進んだ。
「同じ生徒会の方、なんですよね。いつもうちの奏斗がお世話になってます。」
そう言ってアキラと無理やり握手をする。
「今日はお願いがあってきたんです。」
「お願い?あの人からのお使いですか?」
彼は不敵に微笑みながら手を握り返した。
「いえ。奏斗に関わらないでくださいって言いに来ました。」
するとアキラは目を丸くして、それから小さく鼻で笑った。その端正な顔はどこか色気があって、バカにした表情でも思わずうっとりしてしまうほど美しかった。
「奏斗が、そう言えって言ったんですか?」
「いえ、俺自身からのお願いです。」
そう言って、手を力強く握りしめる。
「ですよねぇ、…じゃあ聞けません。」
アキラは完全に力を抜いて、されるがままにされていた。
「私は奏斗の大切な『せら』を傷つけるわけにはいかないので…気が済むまで握りなさい。」
余裕そうにもう一方の手をヒラヒラ振りながらアキラは言った。
「………。」
なんだかバカバカしくなり手を離すと、代わりにアキラを睨みつけた。
「そんなに睨まないでくださいよ。心配しなくたって私たちはただの友達です。だって男同士ですし?」
「LINEを見たんです。」
「………あーー。不用心だな、あいつはもぉ。」
アキラはポリポリと頭を掻いて、そしてため息をついた。
「これを晒されたくなければ、奏斗から手を引いてください。」
「そんなことすれば一番被害を被るのは奏斗って分かってるでしょう?慣れないハッタリはやめなさいよ『せら』」
「……ハッタリだと思いますか?今の時代はあなた1人を貶める加工なんてすぐできますが?」
「それに気づいた奏斗が悲しむってなんで分からないんですかね」
アキラは卑怯にも奏斗の名前を出して、俺の動揺を誘った。俺はただ表情を殺してなんでもないように振る舞うのが精一杯だった。
「っていうか、貴方は奏斗のなんなんですか?家族?恋人?ただの友達なんでしょ?そんなの他人も同然………って、言っても私が傷つくだけだからやめとこう。」
アキラはなぜか前言撤回した。
「俺にとって大切な人だから、こういうことを止めたいだけなんですけど。」
「だから、奏斗はもう子供じゃないでしょ。自分で決めて、自分で選んでいる。で、私と遊んでる。私と奏斗の関係に他人が口出ししないで欲しいんですが。」
「そうですけど、これは見逃せません。」
アキラは不思議そうに首を傾げる。
「なんで?」
「………え?」
「なんで赤の他人の貴方がそこまで奏斗に干渉するんです?」
言葉が詰まった。
なぜ自分はこんなに怒っているのだろうか。
だっておかしいではないか、俺は奏斗のことをちょっとめんどくさい友達だとそう思っていたはず。
数秒ほど、考えて一番自分の気持ちに沿った答えを口に出した。
「だって、おかしいから。」
奏斗が俺以外の他の人を見るなんて、触るなんて、そんなことありえない。おかしいのだ。
「間違ってます。」
きっと自分のせいなのだろうと思った。
自分が奏斗の傍にいてあげられなかったからあの真面目で潔癖なはずだった奏斗がこんな行動をしてしまったのだ。
「傲慢ですよ。」
俺の思想を打ち消すようにアキラは鋭く言った。表情は笑っていたけれど目は笑ってなかった。
「それに、とんでもなく怠惰。貴方は自分さえいれば奏斗が私としなくて済んだと?バカですねぇ。」
アキラはくすくすと笑いながら、俺の肩をポンと叩いた。
「他の可能性も考えなさい。あの人は貴方以外にも他にも色々抱えてるんですよ。」
「………。」
「分からないならいい。そのまま弟のポジションを大切にしていれば一生安定ですよ。私だってそこじゃ貴方には勝てない。ま、奏斗の弟なんてなりたくもないですけどね」
アキラはそう言ってキザに微笑むと颯爽と去っていった。甘い香水の香りがした
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