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二度目の入れ替わりから1週間が経った。
あれは現実に起こったことなのだろうかと今でも半信半疑のままだ。
何度も言うがここは現実世界なのだ。入れ替わりとか、ファンタジーでしか有り得ないことなんだから!
でも、時間が経つにつれて、頭の中が少しずつ整理出来てきたのは確かだ。
まず1つ目。
鷹也がアメリカから帰ってきたということ。逆に言えば今まで日本にいなかったということ。
2つ目。
鷹也が独身だという可能性が高いこと。現在結婚している可能性はない。親が見合いをセッティングしたのだから。
3つ目。
光希さんの名前が全く出てこなかったこと。二人が許嫁だったなら29歳にもなって結婚していないのはおかしい。たとえアメリカに行っていたから結婚できていないにしても、お見合いの前に名前が挙がるはずだ。やっぱりあの人、勝手に自分のこと許嫁だと言ってたんだわ。
4つ目。
私の目が腫れていたこと。
あの時、入れ替わった鷹也は泣いたはず。それはどうして?
色々と気になることが多くて、考えれば考えるほど、混乱する。
「……頭のデトックスが必要だわ」
「で? でとっ?」
「ああ、なんでもないよ。……ひな、ちょっとお出かけしようか」
「こうえん!?」
「んー……公園じゃなくて、お寺に行こうと思う」
「おてら?」
「うん。今日1の付く日だし、土曜日だし、ひょっとしたら楽しめるかも」
先日、ふと通りかかった藤嗣寺。今日なら屋台が出ているかもしれない。屋台が1つ2つでも、ひなにとっては珍しいものだ。きっと喜ぶはず。
それに、あの天井の高い御堂の中でこの煩悩をデトックスしたい。モヤモヤを無くしてリセットしたいのだ。
私はひなを自転車の後ろに乗せて、藤嗣寺を目指した。
1の付く日とあって、外から見ているだけでも、たくさんの人が参拝に訪れているのがわかる。
「あ! ママ、ベビーカステラだ!」
「ほんと、屋台出てるわね。ひな、ここで礼をするのよ」
「れい?」
「門をくぐる前にお寺に向かってペコってして?」
ひなが可愛くペコっとしている。
「そうそう。じゃあ入ろうか」
境内にはベビーカステラとどんぐり飴の2つの屋台が出ていた。ひなは大喜びで屋台に向かっていったが、先にお参りを済まさなくてはならない。
寺務所に連れていき、ひなの分のロウソクとお線香を買おうとしたが、ひなの小さな手では持てないことに気がついた。
「どうしようか……」
お線香の箱の前で困っていると、寺務所から前回親切にしてくださったお坊さんが出てきた。
「こんにちは。来てくださったんですね」
「こんにちは。娘を連れて来たんです」
するとひなが可愛らしくご挨拶した。
「こんにちは!」
「こんにちは。お母さんにそっくりだね。お参りに来てくれたの?」
「……?」
「あっ、ひなにはまだお参りの意味がわからないかも……」
「そっか。三歳だもんね。お母さんがお参りするの横で見てる? それとも一緒にお参りする?」
「あのぅ……娘に21本のお線香を持たせるのはちょっと……」
手の大きさがまず無理だ。それに火をつけたまま持ち歩くのも危ない。
「それなら一緒に回りましょうか。娘さんの分は僕が持ちます。ひなちゃん、かな? おじさんと一緒にお参りする? それともあそこのブランコで遊んでいてもいいよ?」
「ひな、おまいりするー!」
「よし、じゃあおじさんと行こう!」
さすが同じ歳の子供がいるだけあって、小さい子の扱いが上手だ。ただこの優しい雰囲気は、元々の気質かもしれないけど。
それから私たちは三人であの忙しいお参りを済ませた。
最後に入ったのは本堂。お線香とロウソクの匂いが詰まった本堂はやっぱりホッとする。
「本堂の中でゆっくりされていきますか? ひなちゃんは外で預かっていますよ」
「え、でも申し訳ないです」
「寺務所の裏に自宅があるんです。あ、申し遅れましたが僕はこの寺の副住職で長岡光希(ながおかこうき)といいます」
「和久井杏子です。娘はひらがなで『ひな』。そのままです」
「ひなちゃん可愛いですね。うちの息子も自宅で退屈しているんですよ。実は妻が先週出産したところでどこにも出かけられなくて」
「出産! それはおめでとうございます!」
「ありがとうございます。息子を連れてくるので、ひなちゃんと一緒に遊ばせますよ。ゆっくりしていってください」
副住職さんか……。本当にいい人だな。
ひなも同じ年の子供と遊ぶ方が楽しいだろう。
それから私は本堂の中に戻り座り込んだ。
考えないといけないことがあったはずなのに何も浮かばない。
ただひたすらボーッと如来様を見つめ続けた。
どれくらい経ったのだろう。ふと、祖母とその幼馴染みの写真が頭に浮かんだ。
そう言えば、祖母は花まつりの日に幼馴染みと会ったと言っていたのに、その方は葬儀に来られなかったな。
でも誰からも連絡がなかったら知るよしもないか。
やっぱり私から伝えるべきかもしれない。