テラーノベル
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スーツ姿をした、五人の男たち。彼らはこの場において、恐怖の象徴であった。
人間離れした力を持ち、逆らえば殺される。
輝夜が訪れる前に、恐らく誰かが抵抗したのだろう。
その結果として、首を一回転させられた。
「あの人達、何なんだろう」
「……多分、悪魔だな」
白スーツ、リーダーらしき男が口にした、プライヤという名前。輝夜はその名前の持ち主を知っていた。
つまり彼ら五人は、”そっち側”の存在なのだろう。
この姫乃の街に、居るはずのない生き物。
「でも、どう見ても人間にしか」
栞が知っている悪魔は、もっと”化物”のような姿をしている。
少なくとも、ネットやニュースではそう映っていた。
人にしか見えない、”擬態”した悪魔。
だからこそ、ここまで入り込めたのだろう。
男たちがパソコンのような機械を起動すると。
地下室の真ん中に、”魔法陣”のようなものが発生する。
「まずはそいつを送ろう」
雑に引きずられながら、首の折れた男が魔法陣の上に運ばれる。
その状態で、彼らが機械を操作すると。
魔方陣の上にいた男が、瞬く間に消えてしまう。
まるで、どこか別の場所へ”転送”されたように。
それを確認すると、リーダーの男がスマホでどこかと連絡を取る。
「ひとまず一体目だ。……いや、別に転送事故じゃない。単に見せしめで殺しただけだ。”加工”には問題ないだろう?」
スマホで通話しながら、リーダーの男は集められた人々を見る。
「次からは、ちゃんと生きた人間を送る」
◆
善人を殴ろうと、思いっきり振り抜かれた拳。
けれどもそれは、善人の持つ”黄金の魔力”によって阻まれていた。
そんな光景を、桜は困惑した様子で見つめる。
「お兄ちゃん、なんで?」
「さぁ、なんでだろう」
メガネを掛けた”悪魔”は、ただ淡々とした口ぶりで。
桜との間に、親しい関係があるようには見えなかった。
故に善人は、目の前の二人を明確な敵であると認識する。
「アミー!」
「おう!」
善人の声に呼応して、アミーがすぐ側に実体化する。
もう一人の悪魔と対峙するように。
「下がってて」
善人は、桜を自分の背後に下がらせた。
二人の悪魔と、善人たちが向かい合う。
「指輪を身に着けた人間は、時に不思議な力を使うことがある。そう聞いていたが、まさか悪魔を召喚するとは」
メガネの悪魔は、冷静に相手の力を確認する。
「見たところこいつ、呪いの影響を受けてねぇぞ」
「あぁ、かなり分が悪い」
敵は、”全力を出せる悪魔”と、特殊な力を持った人間。
対するこちらは、あくまでも”潜入用”の姿と。
双方の戦力を比較する。
「”レパード”の指示を覚えてるか?」
「……ああ」
二人の悪魔はアイコンタクトを交わすと。
同時に地面を蹴り、壁を伝って建物の上へと登っていく。
「あいつら、逃げる気か!」
彼らが選んだ道は、逃走の一手。
地上での戦闘は、悪魔にとってあまりにも”リスク”が高すぎた。
「ちっ」
アミーは追いかけようとも考えるも。敵は二人いるため、追跡は厳しいと判断する。
人間離れした身体能力で、二人の悪魔は建物を移動する。
このような都会の街では、自由自在に飛び回る彼らを捕まえる術がない。
それ故、かつてアミーもロンギヌスの特殊部隊から逃れることが出来た。
#TS
409
#第3回テノコン
彼らに追いつけるとしたら、それはもはや人間ではない。
「――がッ!?」
”空から飛来した何か”に、思いっきり蹴られ。メガネの悪魔は地上へと落下する。
そして”彼女”は、間髪を入れずにもう一人の悪魔を視界に捉えると。
右腕を”ロケットパンチ”のように射出し。
その伸ばした腕で、悪魔の首を掴んだ。
彼女の腕は、見るからに機械仕掛けであり。太いワイヤーで繋がって、その胴体へと戻ってくる。
悪魔の首を掴みながら。
彼女、”影沢舞”は地上に降りた。
「にわかに信じがたいですが。身体能力からして、確かに人ではなさそうですね」
「くっ、テメェ」
悪魔が必死に抵抗するも、影沢の腕は振り解けない。
圧倒的に、”馬力”が違っていた。
「ッ」
メガネの悪魔は地上に蹴り落とされ。
もう一人は影沢に捕まった。
その場所へ、善人たちもやって来る。
「輝夜さんは?」
「喫茶店で待ってます」
「なら、大丈夫ですね」
悪魔をその手で捕らえたまま、影沢はスマホを操作する。
すると、
『――悪魔の侵入が確認されました。安全が確認されるまで、市民の皆様は屋内への避難をお願いします』
彼女の通報によって、街中に緊急放送が流れ始める。
白昼堂々と戦う以上、もうその存在を隠すわけにはいかない。
「こうなれば戦争です。あなた方も、”お仲間”を呼んだらどうですか?」
「……あいにく、こっちは二人だけなので」
メガネの悪魔が立ち上がる。
「気をつけろ。この女、”サイボーグ”だ」
「見れば分かる」
前方には、得体の知れないサイボーグ女。
背後には、悪魔と人間のコンビと。
どう見ても勝ち目のない状況だが、彼にもプライドがあった。
「人体改造は”こちら側”の技術だ。コピー品が、本物に勝てると思うな!」
まずは仲間を助けるべく。
影沢に接近すると、右の拳を放った。
対する影沢は、持っていたスマホを投げ捨てると。
空いた左の拳で、相手の拳を迎え撃つ。
影沢と悪魔、双方の拳が激突。
すると、
パワーの差が如実に表れ。
悪魔の拳が、一方的に破壊された。
「があぁぁッ」
ひしゃげた右の拳、破れた皮膚の間から、”真っ赤な粒子”が溢れ出る。
その内側を、晒してしまったがために。
「……やはり、皮ですか」
苦しむメガネの悪魔を見ながら、影沢はつぶやいた。
なぜ、悪魔がこの街に侵入できたのか。
基本として、悪魔は人間界で普通に活動することが出来ない。
月の呪いから受ける影響が人間の比ではなく、体中から生命力が抜けて、最終的には死んでしまう。
それを克服する唯一の手段は、”人間の血液”を纏うこと。
人間の血液をフィルターとして利用することで、彼らは月の呪いを軽減し、地上での活動が可能になる。
血液を纏う方法は、いくつか存在する。
一つは、血液を”鎧や外殻”のように加工し、全身を覆う手段。この方法を使うことにより、悪魔は地上でも十分な戦闘を行うことが可能となる。
悪魔が地上で暴れる場合、大抵はこの手段を用いるため、必然的に人類には悪魔=”赤い化物”というイメージがついた。
とはいえ、鎧のように纏う方法は、自分が悪魔であると言いふらしているようなものであり。
もっと自然に溶け込めるように、血液を”薄い膜”のように纏う方法が開発された。
その性質上、戦闘行為には向かないものの。人間のふりをして紛れ込むには、十分過ぎる技術であった。
しかし、それらの方法を用いたとして、悪魔が姫乃に侵入することは不可能である。
街への出入りには検問所を突破する必要があり、僅かでも”血の匂い”がすれば弾かれてしまう。
また、街中の至る所に”魔力検査器”が設置されており、悪魔が悪魔である以上、その存在を隠すことは出来ない。
ならば、彼らはどうやってこの街に侵入したのか。
なぜ検査器に引っかからないのか。
「殺した人間の皮を、被ってるんですね」
影沢が口にした言葉に、善人たちは衝撃を受ける。
それが本当ならば、あまりにも。
「”人の皮を被った悪魔”と、昔から言いますが。まさか文字通りの存在が現れるとは」
「……何を、言ってるの?」
突きつけられる現実に、桜は理解が追いつかない。
「とはいえ、戦闘には不向きですね。被った皮膚に損傷を受ければ、途端に呪いの影響を受けてしまう」
ひしゃげた拳から、生命力が抜けていく。
このメガネの悪魔は、放っておいたら死んでしまうだろう。
「ここの本部には、月の呪いを遮断できる部屋があります。大人しくしてくだされば、そこへ連れていきましょう」
「ッ、テメェ」
もう一人の悪魔は、影沢に首を掴まれつつも対抗心が剥き出しであった。
そうやって、影沢と二人の悪魔が話していると。
「――ちょっと待ってよ!」
居ても立っても居られず、桜が話に割って入る。
「どういうこと? どういうことなの? 殺した人間の皮を被ってるって。じゃあ、そこにいるお兄ちゃんは?」
それが意味する事実を、桜は直視できなかった。
「……そういう、事情でしたか」
なぜ、この悪魔たちを発見できたのか、影沢はその理由を察し。
「酷《むご》いことを」
「ぐっ」
悪魔を掴むその手の力が、自然と強くなる。
「この街へ来た理由は? 一体何を企んでいる」
「……」
問いただされても、二人の悪魔は口を割らない。
首を掴まれようと、呪いに晒されようと。
彼らの中には、確かな信念とプライドがあった。
「テメェら、もう終わりだぞ」
首を掴まれた悪魔が、嘲笑うように言葉を発する。
「どういう意味ですか?」
「ハッ、言うかよバカ」
人が人を思うように。
悪魔もまた、強い結束で結ばれている。
「この街も、世界も、――俺たち悪魔のもんだ!!」
絶対に、相容れることのない。
心からの憎しみを叫んだ。
◆
「やめてくれぇ!」
悲痛な叫びを上げながら、人々が魔法陣の中へと消えていく。
回収されたスマートフォンと、”電子精霊”の集めた情報を元に。
”社会的地位”の高い人間から優先的に転送されていた。
「最後に連れてきた少女は、素性がはっきりしませんが」
「気にするな。どのみち、あれは計画には使わない」
白スーツを着たリーダー、”レパード”が。
想定外の客である、輝夜を見つめる。
「”オークション”に出せば、かなりの高値がつくだろう」
「……ですね」
聞こえてくる会話に、輝夜は最悪の未来を予見した。
「魔界に連れて行かれて、食べられちゃうんじゃ」
「……心配するな。必ず助けは来る」
不安に震える栞を、優しく励ましながら。
影沢や善人など。
必ず助けが来ると、輝夜はそう信じて。
無情にも、時間は過ぎていった。
「とりあえず、これでノルマは達成だな」
「ええ」
すでに、半数以上の人間がこの場から消え。
残されたのは、女や子供ばかり。
「計画に必要なのはこれで全部だ。今から、”おまけのおもちゃ”を送る」
リーダーのレパードが、スマホで向こう側と連絡を取る。
「そこの一番可愛いお嬢さん、こっちへ来なさい」
「……あぁ、くそ」
生まれて初めて、輝夜は自分の美しさを呪った。
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