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「んー! おいしーっ!」
これでもかというほどに、生クリームの盛られたクレープを口にして美蘭が言った。
フルーツクレープとのことだが、これではその肝心のフルーツ部分が見えず、映えないではないか。そう思い、ほかの客を見ると「クリーム萌え」だとかいっていた。どうやら僕は場違いらしい。そもそもの客層が女子高生だらけで、男は僅かだ。
いや、待て。このフルーツ見えない問題を店員さんに文句つければ、それこそ本当のクリーム萌えならぬ、『クレーム萌え』になるのではないか。なるな。
「ねえ。すごーく、どうでもいい事考えてない?」
じーっと睨みつけ、若干距離ある感じに彼女が言った。
「失礼ですね、当たってますけど」
「やっぱりどうでもいいことじゃん」
頬を膨らませ、これでもかというほどに悔しさをもって答える。
「でも、こういったどーでもいいことを考えるのが、結構、サークル活動の一環になってたりするので」
すると、彼女は不思議そうな表情でこちらの顔を覗いてきた。話しかけられた子犬のように首を傾げた様子で。
「あれ、言ってませんでしたっけ。美蘭さんと同じ大学の小説サークルに入ったんですよ、まったく同じ」
「いやいやいや、知らない知らない!」
「知らない……で、済むとは思わないことだ」
冷汗が、髪伝わって落ちた。その行く先がこの上ないほど気になった。まるで何かが取り付いているかのように、それを一度確認したくなっていた。
要はこの現状から目を背けたいのだろう。その程度は理解できている。しかし、そんな理論すら関係なく、まるで欲望で人を迷いなく殺せる殺人鬼のように。今自分から、一般性が消えていっている事さえ理解できてしまっていた。
いったい俺はどこで道を誤った。ずっと完璧ったはずなんだ。
美蘭を妻に持った後。高卒ながらも資格を得て、こんな大企業には入れた。同期は年上でエリートばかりだったから、あいつらよりも、ずっとずっとずっとずっと。努力して努力して努力して努力して……。
この社会ってのは結局、生まれたその時から、その人間にあった身の程ってのがある。
愛があったとして、抗いようのない絶対のそれが。俺の人生ってのは、その無謀に虐げられるためだけにあったのかもしれない。そのことを今、この圧倒的理不尽を前に強く実感した。
俺みたいのがエリートの中で生き抜いて、追い越してやるために何をしたと思う。話したくもねえ婆どもに若い男として愛想振りまくんだ。顔だけはいいから、使える門は全部使う気概で、会社中の女性にはその気があるように振舞ってやった。
それら全部、俺の人生がこんな一瞬で終わっちまうのか。
嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だ。
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