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再会
数日後。
練習場の片隅で、凛は冴と鉢合わせた。
逃げるべきだと頭では分かっている。
でも足は動かなかった。
冴もまた、黙ったまま凛を見つめている。
その視線の熱さに、凛の心臓はまた早鐘を打ち始めた。
「……この前のことは忘れろ」
冴が低く言う。
「お前を困らせるつもりじゃなかった。ただ、抑えきれなかったんだ」
その正直さが、凛をさらに追い詰める。
(兄貴らしくねぇ……でも、だからこそ――)
凛は唇を噛んだ。
「忘れられるわけないだろ……」
冴の目が見開かれる。
凛は視線を逸らした。
「俺だって、どうしていいか分からないんだよ。兄貴を追いかけてきたのに……そんなこと言われて、逃げたって頭から離れない」
声が震える。
胸の奥に渦巻く矛盾。
拒絶したはずなのに、またこうして冴を求めている。
冴はゆっくり近づき、手を伸ばしかけて――止めた。
「……悪い。触れたら、もう戻れなくなる」
その言葉に、凛の心は大きく揺れた。
(戻れなくなっても……いいのかもしれない)
でも口にはできなかった。
ただ二人の間に沈黙が流れる。
許されない気持ちと、どうしようもなく惹かれる想い。
凛の心は、確実に動いてしまっていた