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拒絶と渇望
冴の言葉に、凛の胸は張り裂けそうだった。
(戻れなくなる……? そんなの、もうとっくに――)
喉まで込み上げた思いを、凛は必死に押し殺す。
「……やめてくれよ、兄貴」
かすれた声でそう言った。
「俺たちは兄弟だ。サッカーで戦うためにここにいるんだ。そんな気持ち、持っちゃいけないだろ……」
吐き出す言葉とは裏腹に、指先は震えている。
冴に触れたいのに、それを否定するために拳を握りしめた。
冴は苦しげに目を細める。
「凛……」
「言うな!」
凛は思わず叫んだ。
「もうこれ以上言ったら、俺……本当に戻れなくなる」
その一言を残して、凛は背を向けた。
逃げなければ崩れてしまう。
兄として、ライバルとして、何よりもサッカー選手としての自分が。
背後で冴が何か言おうとした気配があった。
けれど振り返れば、全てが壊れてしまう。
だから凛は走った。
胸を焼く痛みを抱えたまま。
冴のことを考えれば考えるほど、心が引き裂かれるように苦しくなった。
(……好きになんて、なりたくなかった)
夜風に呟いたその声は、自分自身への呪いのように響いた