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鷹槻れん

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#契約結婚
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夕飯の支度を終えた瑠璃香は、壁の時計を見上げた。
午後七時を少し回っている。
「まだかな……」
ぽつりと呟くと、ケージの中で回し車を回していたなまこが、こちらへ顔を向けた。
「ふふ。なまこも待ってるの?」
瑠璃香が問うと、なまこは何事もなかったように回し車を回すことに没頭し始める。丸っこい身体からちょろちょろと覗く短い脚で、ちょこまかと懸命に走る姿に少しだけ頬が緩んだ。
今日の献立は、戦いで疲れて帰ってくるであろう晴永のために、彼の好きなものばかりにした。
肉じゃが。
ほうれん草のお浸し。
味噌汁。
そして、少し甘めの卵焼き。
焼き上がったそれを見た時、自然と笑みがこぼれた。
(ちゃんと綺麗に焼けた)
初めて彼にこれを作った日は、ちょっぴり緊張したのに。
今では迷わず焼ける。
けれど今日は、料理をしている間、何度も時計を見てしまった。
角宮盛晴との話し合いはどうなったのだろう?
盛晴は、『角実屋フーズ』の社長としてではなく、祖父として晴永の話を聞いてくれただろうか。
自分とのことは認めてもらえただろうか。
それとも――。
考えたくない想像が頭をよぎる。
「大丈夫……」
自分へ言い聞かせるように呟いた、その時だった。
ガチャリ、と玄関の鍵が回る音がした。
勢いよく振り返る。
パタパタとスリッパの音を響かせて玄関へ向かうと、ちょうど扉が開いた。
「おかえりなさい」
「ただいま」
その声を聞いた瞬間だった。
(あ……)
晴永の表情を見て、瑠璃香は胸が熱くなる。
疲れている。
けれど、その顔にはどこか吹っ切れたような穏やかさがあった。
晴永は、盛晴とちゃんと話せたのだ。
そしてきっと……。
晴永は靴を脱ぐと、小さく笑った。
「終わったよ」
その笑顔だけで十分結果が伝わってきて、瑠璃香の全身から力が抜ける。
「……っ」
安心した途端、視界が滲んだ。
晴永が苦笑する。
「なんでまだ結果を話してないのに、泣くんだよ」
「だって……」
言葉にならない。
晴永はそんな瑠璃香を優しく抱き寄せてくれた。
「瑠璃香とのこと、ちゃんと認めてもらえたよ」
耳元で静かに告げられる。
「……本当?」
「ああ。けど……」
そこで言葉を区切った晴永に、瑠璃香は泣き濡れた顔のまま彼を見上げる。
「一年後じゃねぇと、瑠璃香とは結婚させられないって言われた」
瑠璃香は息を呑んだ。
「え……?」
「ごめん。瑠璃香。ちゃんと説明する」
それから晴永は祖父とのやり取りをゆっくり話し始めた。
婚約解消を正式に発表すること。
藤井田家との話。
そして一年間、角宮家で公私ともに上に立つ人間としての在り方を学ぶように言われたこと。
ひとつひとつ聞き終える頃には、瑠璃香の頬は涙でぐしょぐしょになっていた。
一年は長い。
それでも、盛晴に認めてもらえたことが嬉しくて。
「良かったです……」
その一言しか出てこなかった。
晴永の帰りが思いのほか遅いから、今日は認めてもらえなかった……と彼が意気消沈して戻ってくることも想像していた。
それを思えば、本当によかった、と思う。
晴永とともに笑える未来を、未来永劫奪われなかったことに感謝すべきだとすら感じた。
「あ、あの……。もう食事、出来てます」
諸々の感情を押し流すように、涙をぬぐって笑顔を向けると、晴永が「楽しみにしてた」と優しく笑い返してくれた。
食卓へ並んだ料理を前に、二人で向かい合って座る。リビングの片隅で、なまこがカラカラと回し車を回す音が微かに響いている。
いつも通りの光景だ。
「いただきます」
いつもと同じ言葉。
だけど、盛晴から関係を承諾された今日は、どこか特別だった。
晴永は卵焼きを一口食べ、小さく笑う。
コメント
2件
はるながくん、お疲れ様!
うわぁ…よかったですね、このお話🥺 瑠璃香さんが晴永くんを待ってる間の“まだかな”って小さな呟き、すごくリアルで胸ぎゅっとなりました。帰ってきた晴永くんの疲れてるけど穏やかな顔と、“終わったよ”の一言がもう…涙腺崩壊です。1年後って条件ついても、認めてもらえたことが本当に嬉しくて涙が止まらない瑠璃香さんの気持ち、すごく伝わってきました。なまこが回し車を回してる日常の音が、かえって特別な夜を際立たせてて素敵でした🌙✨