三番地
ーそこは何もかもをなくした人々の行く場所だという。ー
僕は今もうそこに行ける。そうだろう、何もかもなくし、行くべき場所もわからないのだから。家族が跡形もなく消え、周りもそれにつれて居なくなった。半年前の事から全ての事を話すとしよう、始まりは父の失踪だった。父が突然消え、母は家のことを何もしなくなり、酒やたばこ、ギャンブルに走っていくようになった。僕と幼い弟の2人だけで生活を維持することはとても困難だった、親戚も少しは来てくれていたけれど最初のうちだけだった。僕のその頃の生活は朝起きて弟のお弁当と朝ごはんを作り、自転車で保育園に送り、自分の学校に行き、バイトに行き、帰りにスーパーに寄り、日用品や食材を買い、保育園弟を迎えに行き、帰って夜ごはんを作り、掃除や洗濯を済ませ、弟を寝かしつけ、勉強をして寝るという生活だった。心より先に身体が疲れを出してきてしまったのは2ヶ月経たなかった。学校で自分の席から立った時にまるで貧血のように倒れてしまった。 「過労。」それはただの過労だった、僕が我慢し弟のために生活を維持していかないといけないという使命と責任感だけで頑張ってきた自分にはそれはただの過労に過ぎなかった。学校の先生にあまり家のことに干渉して欲しくなかったというのもあるだろう。僕は何も話さずに先生に会釈をし家に帰った。学校側が母に連絡をしたのだろう。帰ってきた母の姿を1ヶ月振り位に目にした。ぼくに「あんた大丈夫なの、」それだけを言った。「大丈夫だよ、心配しないで。」とぼくが言うとすぐに玄関の方に向かう背中があった。その瞬間に弟の母への気持ちがすぐに出た。弟が母の手を引き「いかないで!どこにいくの、まま!ぼくもっ、っ」ぱっ、。弟が言いたいことを全て言うより先に母が弟の手を振り払った。「触らないで、もうままじゃないのよ!ゆうなら分かるわよね!!?」あ僕の名前はゆう。「結」と呼ぶのはお父さんしか居なかったし呼んでくれるのは初めてで、名前すら久しぶりに思い出した。「あ、うん。ぼく分かるし、大丈夫だよ。絆にも言い聞かせておくね。」また玄関に向う背中とこれまでで1番泣く弟をみた。この時にしか変えなられなかった未来の分岐点はそこなのだとその頃のぼくには分からなかった。