テラーノベル
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「おはよ〜、修成くん。」
リビングに行くと、中里は何事もなかったかのように挨拶をしてきた。俺は昨日のせいで、ろくに眠れなかったというのに。
ふつふつと湧いてくる怒りから、無視をしてしまおうかという考えが一瞬よぎる。だが、冷静になろうと、思考を必死で切り替えた。
「…どういうつもりだ」
単純に、そう問いかけてみる。
「何のこと?」
明るい声で、すっとぼけた答えが返ってくる。どうもこの女は掴めない。いや、そもそも色々と考えるタイプじゃないのだろうか。
「昨日のことだよ。なんであんなことをした」
仕方なく、その質問に付き合って返してみる。
「別に。お互いに溜まってるもの、あるでしょ?それを晴らしたかっただけ。」
濁してはいるが、そういうことらしい。俺はそれ以上は何も聞かず、朝の支度を始める事にした。
…と思えば、ダイニングテーブルの上にトーストが置かれていた。
「有り合わせだけど作ったよ。どう?」
中里がさりげなく声をかけてくる。トーストには目玉焼きが乗っていて、カットされたパプリカが目玉焼きを囲むように並べられている。ほのかにマヨネーズの香りもした。
誰かに手料理を振る舞われるのが久しぶりだったせいか、なんとなく落ち着かない。椅子に座り、そのトーストを見下ろす。
「…いただきます」
トーストを手に取り、口に運ぶ。…うまい。
ついつい、早く食べ終わってしまった。なんて考えたのも束の間、こちらをじっと見つめる視線に気づく。
ゆっくり顔を向けると、満足そうな笑みを浮かべて俺を見つめる中里と目が合った。
……早く準備をしよう。どうにも居心地が悪い…。
修成くんが仕事に行った後は、家事をする。
まず、先に洗濯機を回す。
その間に掃除を済ませて、洗い終わった洗濯物をベランダに干す。
その後、昼ごはんを作って、食べた後に一時間ほど休憩。
休憩が終わったら買い出しに行き、帰ってきたら、夜ご飯を作る。
そうしていたら、一日が終わる。
私は家事が好きなので、そんなに苦ではない。何より、この生活は性に合っている。
それに、ヒモとして居させてもらうには、こういうところで働くしかなかったりする。
「おかえり〜」
修成くんがいつも通りに帰ってくる。
だけど…
何も言わずに、修成くんはソファーに倒れこんだ。
そっと足音を忍ばせながら少しだけ顔を覗き込む。
苦い顔で涙を流していた。
……なんだ、意外と可愛いところあるじゃない。
そう思って一歩近づいた瞬間、修正くんはビクッと体を跳ねさせて、素早く体を起こす。
「!?…あ、み、見るなよ!!」
修成くんは顔を赤くして、手で顔を隠す。
もしかして、私のこと忘れてた?
…なにそれ、可愛すぎじゃない?
「しゅーうせいくんっ!」
「うわっ!?」
な、何をしてるんだこの女は!!
昨日より大胆な正面からのハグ。もはや胸が顔に押し付けられている。普通に苦しい。
俺は押し返そうとするが、中里の力が強くて押し返せない。
まずい…このままじゃマジで死…!
「んんっ!!んー!」
「あ、ごめんごめん」
声を上げるとようやく胸が離れる。
だが、抱きついた体勢から動いてくれない。
「離れろよ…」
「いや」
即答で拒否され、ついでのように足に乗られる。普通に重い。
「あはは、可愛いなぁもう〜!」
こっちの都合なんかお構いなしに、笑顔で言ってくる。
「!」
頭を撫でてきた。
「やめろって…」
そう言っても、やめる気配がない。
「あら、甘えるのは意外と苦手?」
…そんな馬鹿みたいなことを言ってくる。
「大の大人が甘えるものじゃ無いだろ」
「んー、それも一理あるかもだけど…」
「大人だって、甘えたいときくらいあるでしょ?」
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