テラーノベル
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元貴さんと一緒に暮らすようになってから、数ヶ月。
玄関のドアを開けて「ただいま」と言うたびに、胸の奥がふわっと温かくなる。
あの日、石川の家を出るときには想像もできなかった、夢のような毎日。
「おかえりなさい、元貴さん! ちょうどお鍋、沸騰するところです」
エプロン姿の私を、元貴さんはいつだって愛おしそうに見つめてくれる。
スタジオで見せる鋭い表情とは違う、私だけに向けられる少し幼くて、でも独占欲に満ちた瞳。
「……ただいま、らんちゃん」
そう言って、元貴さんは当然のように後ろから抱きついてくる。
首筋に当たる彼の吐息がくすぐったくて、私はお玉を持ったまま顔を真っ赤にするしかない。
元貴さんは、付き合う前よりもずっと甘えん坊で、ずっと過保護になった気がする。
「元貴さん、お鍋焦げちゃいますってば……」
「いいの。今はらんちゃんを補給する時間だから」
仕事場では「大森先生」と「見習いスタッフ」として、適度な距離を保っているつもりだけど……。最近は若井さんや涼ちゃんから「元貴の『らんちゃんレーダー』が鋭すぎて、僕たち近寄れないよ」なんて苦笑いされてしまう。
元貴さんは否定するけれど、私が他のスタッフさんと長く話していると、いつの間にか横に立って私の肩を抱き寄せたりする。
その独占欲が、少しだけ困るけれど、本当は堪らなく嬉しい。
夕食の後、二人でソファに座って仕事の資料を広げる。
でも、私の集中力は5分も持たない。
「らんちゃん。仕事の話は、あと5分で終わり」
「えっ、でも、この照明の配置が……」
元貴さんが強引に資料を取り上げて、私の手を握りしめる。
私の薬指で光る、元貴さんが選んでくれた指輪。これを見るたびに、私は彼に選ばれたんだという実感が込み上げて、胸がいっぱいになる。
「……ダメ。ここからは、僕たちの時間でしょ」
少し強引に引き寄せられて、元貴さんの腕の中に収まる。
以前は、ヘッドフォンから流れる彼の歌声で自分を励ましていた。でも今は、トクトクと刻まれる彼の心臓の音を、一番近くで聞きながら眠りにつける。
「……大好きだよ、らん」
耳元で囁かれるその声は、世界中の誰よりも優しくて、熱い。
元貴さんの愛は、時々溺れてしまいそうなくらい重いけれど。
その愛を一生分受け止めて、彼が世界で一番幸せな音楽を作れるように支えていくのが、私のこれからの「一番大切な仕事」なんだ。
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コメント
2件
Ringojamさんの作品ほんっと大好きで過去作も沢山読ませていただいています!今回のお話もとっても大好きです!これからも頑張ってくださーい!長文失礼しました!
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