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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

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妖刀鬼神丸〜蛇骨長屋戦闘記

67 - 第67話鉄砲隊の待ち伏せ

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2025年10月16日

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鉄砲隊の待ち伏せ

鉄砲隊の待ち伏せ


「十三代目、源次はしくじったようですな?」

松金屋辰三が中村屋に酒を注ぎながら言ったのは、一刀斎が初めて辰三と会った離れの座敷だった。先ほど命からがら戻って来た源次の手下に報告を受けたのだ。

「はい、奴らを甘く見ていたようで・・・」中村屋は辰三の酌を受けながら、済まなそうに目を伏せた。

「私も、一刀斎って侍は手強いとは思っていましたが、まさかあの爺さんと小娘までがそれほどの腕を持っているとは思ってもいませんでしたよ」

「それは源次の奴もそうだったようで。だが、大坂の香具師からルナを取り戻した志麻とかいう小娘の腕を見て、不安を感じたのでしょう。だからこそ斑目を仲間に引き入れたのでしょうが・・・」

「数を頼めば何とかなると思ったんだろうね。ところがあの人数でも上手く行かなかった、とんでもない連中だよあの三人は」

「源次が捕まった以上、奴らがここへ乗り込んでくるのは時間の問題かと・・・」

「分かってるよ、こうなったらアレを使うしかないだろう」

「アレ、と申しますと?」

「グレイト商会から預かったミニエー銃だよ」

「銃を?そんな事をしたら役人がすっ飛んで来ますよ!」中村屋が驚いて辰三を見た。

「大丈夫だよ、こんな時の為に役人には鼻薬を効かせてある。それに今夜は隅田川に鍋島様の花火が打ち上げられる予定だ、皆、花火の音だと思うだろうよ」

「でも誰が撃つんです、店の者は銃なんか触ったこともないと思いますが?」

「ふふふ、十三代目は奇兵隊って知ってるかい?」

「はい、近頃編成された毛利様の軍隊だそうですね。何でも武士と農民の混成部隊だとか・・・」

「そうだよ、その奇兵隊崩れを十人ほどうちで雇っている。武士と農民が同じ隊でうまくやっていける筈は無いからね。嫌になって逃げてきた奴を匿ってやってるのさ」

「こりゃ驚いた、松金屋さんはそんなことまでやってるんですかい?」

「グレイト商会から頼まれているんだよ。グレイトはいずれどこかの藩に武器を売りつけるつもりなんだ。その時に試射して見せる人間が必要だからね」

「なるほど・・・」

「ここに現れた時が奴らの最後さ。ついでに前金も取り戻してやる」

「死人に金は必要ないですからね」

「ははは、三途の川の渡賃は必要だろうけどね」

「なぁに、奪衣婆に衣服を剥ぎ取られりゃいいんですよ」

「言うじゃないか十三代目」

「いえいえ、松金屋の旦那には今後もご贔屓にしていただかなければなりませんからねぇ」中村屋が笑みを浮かべて辰三の盃に酒を注いだ。

「うふふ、もちろんだよ・・・」

二人は互いに盃を持ち上げて、一気に飲み干した。


*******


「変わった様子はねぇな・・・」

松金屋の戸は閉まっていた。これは当然の事で、仕事が終われば戸締りをするのは普通である。

勝手口の隙間から灯りが漏れているのは、中にまだ人が居て帳簿の整理などをしているからだろう。一刀斎が言ったのは、見張りらしき人影が見えないといった事だ。もし、松金屋が黒幕の正体ならもう少し用心していてもおかしくは無い。

「どうする、裏口から乗り込むか?」慈心が訊いた。

「いや、ここは正面から行ってみよう。もし源次の話が嘘だったらとんだ赤っ恥だ」

「じゃが、本当だったら・・・」

「そんときゃそん時だ、奴の出方次第ぇでは松金屋を潰しちまう事になるかもな」

「ワタシモ、タシカメタイ。ナガネンイッショニヤッテキタノデス、ショウバイハシンヨウガダイイチ、ワタシ、マツガネヤサン、シンジテタ・・・」

「そうだな、奴の口からはっきり聞くまでは判断しねぇほうがいいだろう。だが、十分用心するに越した事はねぇ、みんな気を抜くなよ」

全員、しっかりと頷いた。


*******


ドンドンドン!

一刀斎が勝手口の戸を叩く。

「今戻ったぜ、松金屋に取り次いでくんな!」

中で人の動く気配がした。暫く待つと閂を外す音がして小さく戸が開いた。隙間から眼鏡をかけた顔が覗いた。初めて来た時に会った無愛想な番頭だ。

「おや、お侍さんお戻りですか、皆様はご一緒で?」

「ああ、みんな一緒だ。それよりも早く中に入れてくれ、ここで誰かに見られちまったら今までの苦労が水の泡だ」

「もちろん、さあ、早くお入りなさい」

今日は妙に愛想が良い。

全員が中に入ると、番頭は外の様子を確かめて急いで戸を閉め閂をかけた。

「旦那様がお待ちかねです」慇懃に頭を下げる。

「邪魔するぜ」一刀斎が上り框に足をかけた。

「ちょっとお待ちを」

「何でぇ?」

「そのまま上られては困ります、今、濯ぎ桶を持って来させますので暫くお待ちを・・・」

そう言って番頭は奥へ入って行った。

これもまぁ普通の事である。一日中歩き回った足のまま上られては、廊下や畳を汚してしまう。足を綺麗にしてから上がるのは礼儀とも言えるのだが・・・

女中が運んできた濯ぎ桶で足を洗って待っていると番頭が現れた。

「ささ、どうぞ離れにお通りくださいまし」先に立って案内する。

渡り廊下から見える離れの部屋には灯りが灯っていた。見慣れた行灯の灯より明るく見えるのは、油ではなく贅沢な蝋燭を使っているからだろう。

濡れ縁まで来ると番頭が障子を開けて中へ誘った。松金屋の姿は無い。

「ささやかながら酒肴を用意しております。どうぞご自由にお寛ぎください」

「松金屋は居ねぇのかい?」

「旦那様はお客様のお相手をしておいでです。すぐに参りますので暫くお待ち願いたいと言う事で・・・」

「そうかい・・・」

番頭は頭を下げると、障子を閉めて戻って行った。行燈が部屋の奥二ヶ所に立てられ、皆の影を障子に映し出していた。

「何だか匂うな・・・」慈心が呟いた。

「ああ、罠の匂いがプンプンするぜ」一刀斎が辺りを見回した。

障子の向こうは濡れ縁だ、濡れ縁の向こうには一刀斎が腕試しをされた中庭がある。

ジッと障子を睨みつける。

その時、天空で花火の爆ぜる音がして一瞬障子が明るくなった。

「灯りを消せ!畳に伏せるんだ!」一刀斎が叫んだ。

瞬時に志麻と慈心が反応した。抜刀し行燈ごと蝋燭を斬って火を消したのだ。

同時に轟音が響き渡った。

ブスブスと障子に穴が穿たれたと思ったら、卓の上の酒肴の皿や器が粉々に飛び散った。

耳を聾する轟音が暫く続き、急に静かになった。

空ではまだ、花火の音が続いている。

中庭に人の忍び寄る気配がした。やがて気配は濡れ縁に達し、そっと障子が引き開けられた。

気配は用心深く中を窺うと、銃を構えて部屋に入って来た。

「やったか?」

「いや分からん、真っ暗で何も見えん」

刹那、稲妻に似た閃光が走る。絶叫が二つ闇にこだました。

志麻と慈心が、声を頼りに刃を振るったのである。

大勢の足音が中庭に雪崩れ込んだ。

「どうした!」

「まだ生きているのか!」

同時に三つの影が濡れ縁から中庭に飛び降りた。

途端に悲鳴が沸き起こる。

夜空に花火がまた打ち上がった。

銃を捨てた男たちが抜刀するのが見えた。

混戦の中、銃は役に立たない。下手に使えば同士討ちの危険性すらある。男達はそれをよく知っていた。

「人数はこちらが上だ、一人づつ囲んでしまえ!」

男達が動いた。

「爺さん、志麻!一ヶ所に集まれ!互いに背中を預けて戦うんだ!」一刀斎が怒鳴った。

囲まれてしまってからでは遅すぎる。三人はまだ不完全な囲みを辛うじて突破し、中庭の中心に集まった。円の中心から三方に剣を突き出すようにして構えを取る。

敵は用心深く間合いを取って三人を包み込んだ。

「背後は気にするな、目の前の敵に集中しろ!」

「分かったわ!」

「これで存分に戦えるわい」

敵が包囲の輪を縮めて来た。

最初に動いたのは志麻だった。

女と侮って斬り込んできた敵を一撃の元に斬り伏せる。

それからは、敵を迎え撃っては円の中心に戻るという動きを繰り返した。

一刀斎も慈心もきっと同じ事をしているだろうが、そっちを気にしている余裕は無い。

三人の敵を討ち果たした時、急に当たりが静かになっている事に気がついた。

周囲を見回しても立っている敵は居なかった。すでに戦闘は終わっていたのだった。

「志麻、そいつで最後だ」一刀斎が刀に血振をくれながら言った。

「こいつらは訓練された兵士だ、松金屋の奴一体何処でこんな奴らを雇ったのやら?」慈心が不思議そうに呟いた。

「それよりもベアトたちは無事か?」

志麻が濡れ縁に飛び上がり障子を大きく引き開けた。

「ルナ生きてる!」

影が転がるようにぶつかって来た。

「シマ、コワカッタ!」

「ルナ、良かった無事で・・・」

「ワタシタチモ、イキテマス・・・」

卓の後ろから二つの影が立ち上がった。

「奴ら障子に映った儂らの影を狙って撃ってきたに違いない。咄嗟に伏せなかったら危なかったぞ」慈心がホッと息を吐いた。

「よし、松金屋を探すぞ。まだ邸内に居る筈だ」


*******


結局、全員で邸内をしらみつぶしに探したが、松金屋の姿は影も形もなかった。

松金屋どころか、家族もあの無愛想な番頭も、使用人さえも消えていた。

「仕方ねぇ、今夜は長屋に引き返そう」

「ベアト達はどうする?」

「一緒に連れて帰るしかねぇじゃねぇか」

「長屋の連中にバレちまうぞ」

「奴らだって料亭での宴会が掛かってるんだ、協力してくれるさ」

「そうね、私んちをベアトさん一家に使って貰って、私はお梅婆ちゃんちに止めてもらうわ」

「その後はどうする?」

「道々考ぇるさ、そろそろ役人が踏み込んでくる頃だ」

「そうじゃな、なら一度戻るとするか」

全員が蛇骨長屋に向かって歩き出した頃には、もう亥の刻を回っていた。



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