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第二話 「ごめん。急に連れ出して。ただ静かな場所であなたと二人っきりで話たかったの」
彼女は一様謝っているかのような態度で言ってきた。
“なんなんだこの人は。僕にこんな変な人の知り合いなんていないぞ。先輩だからって何してもいいと思っているだろ”
「別に、謝らなくてもいいんで、話ってなんですか?」
僕はさっさと彼女のもとから離れたくて(さっきのことでムカついて)、冷たくぶっきらぼうにそう聞いた。
そんな僕の態度が気に食わなかったのか彼女は、教室の前で、手首を引っ張られる前の時の表情よりも険しい顔で僕のことを見つめていた。
「あの、やっと見つけたって言ってましたよね?それ、誰かと間違えていませんか?」
僕は、彼女の険しい顔を見て少し怖くなりさっきよりちょっとだけ丁寧に聞いた。
「別に、間違えてはいないわよ。入学式のとき、あなた私のこと助けてくれたでしょ?だからその時のお礼をいいに。ありがとう」
険しい表情と口調は変わらず、お礼を言ってくる。
“入学式?僕誰か助けたっけ?”
本当に身に覚えのない僕は、頭の中で時間を遡り入学式のことを思い出していた。
“助けた?”
「もしかして、桜の木の下で倒れていた人?」
「えぇそうよ」
思っていたことが口から出ていたようだ。彼女からの返答に僕は驚いた。だって、あの時とは違ってとても元気に見える。あのときは本当に死にそうなくらい真っ青で、弱々しかったのにこの一ヶ月で何が起こったのかと彼女に問いただしたくなるくらいに。
「えっと、あの時とはだいぶ印象が違ったから気づきませんでした」
僕がそう答えると彼女は、更に険しい表情になり僕のことを睨み見つけてきた。
僕は彼女の圧に耐え切れづ、他の話題に流した。
「あの、一ヶ月も前のことなのにどうして今頃なんですか?」
“本当にそうだ。あの時から一ヶ月も経っているのに”
彼女は、僕の質問に対して、今度は何かを思い出したかのようにきつい表情をしていた。
“一体何があったんだ”
「あのあと、私を助けた人を探していたんだけど先生は”新入生”とだけしか覚えていなくて、だからあなたを見つけるのが遅くなったのよ」
僕はそう少し照れて話す先輩に”あぁこの人もか”と思った。この人も、僕と付き合いたくて。
「あと一個あなたに話すことがあるわ」
彼女のその前置きのような話し方に僕はただ無関心で聞いていた。
「これはお願いというよりも脅しよ。だから絶対に私がいうことにノーなんて言わないでね」
彼女は、人差し指を僕に突き出しそういった。
“ノーって言ったら駄目って、それは僕に決める権利があるだろ”
彼女の身勝手さに内心呆れていた。
「私が言いたいのはただ一つ。私が”倒れた”ことを一切誰にも言わないってことよ。いい?」
「はぁーいやで…え?今なんて言いました?」
“僕の聞き間違えではないだろうか?”付き合って”の一文字も入っていなかったような”
「だから、私が”倒れた”こと誰にも言わないでって言ってんの。わかった?」
「付き合ってじゃなくてですか?」
先輩は不快そうな顔をして「なんで私があんたなんかと付き合わないといけないのよ」と言ってきた。
初めてだった。女の人に”そう”言われないのは。
「えっと。わかりました。誰にも言わなければいいんですよね?」
「えぇ。言ったらただじゃ置かないわよ」
「わかりました。これで話は終わりですか?」
先輩はコクンと首を縦に振り頷くと、それから”もうお前にようはない”という顔で何処かにいった。
“なんだか変に気疲れしたな”
まだ学校が始まったばかりだというのに、放課後の気分だった。
それからというもの今日、一日中みんなの視線をいつも以上に感じ、不快感となれないことをした疲労感で午後は早退した。
次の日、教室でいつものようにヘッドホンをして机に突っ伏していると、数名の男子から声をかけられた。その中には、”先輩が探してるのは俺かも”とか期待してた奴らもいた。
「お前、あの先輩と知り合いなのか?」
「別に知り合いじゃないけど」
“あっちに行ってくれ”と追い払うように言った。
だけど
「嘘つけ。じゃなきゃなんでお前の手を引っ張ってたんだよ!」
と驚きと怒りが混じった口調で言われた。
「別に嘘じゃねぇよ。誰かと間違えられただけで」
これ以上相手にするのもめんどくさくなってきたので嘘をついた。
「だよな。お前みたいな奴、あの先輩が相手にするわけ無いか」
そいつらは見るからに安堵し、誰があの先輩に話しかけに行くかなどくだらない話をしていた。
「もういいだろ。わかったならどっか行ってくれ」
僕がそういうとへぇ~へぇ~とぞろぞろいなくなった。
“はぁーめんどくさ。これからはもうあの先輩と関わることもないし大丈夫だろうけど”
そんな期待をよそに、彼女はまた僕の眼の前に現れた。