テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「真咲ちゃん、あたし、これからバトン部の練習だから」
帰りの会が終わると、学級委員の子が「だから、ごめんね」と首を傾げながら言った。
だけどそんなの言われなくても分かってる。
彼女はいつも部活や塾があって、一緒に帰ったことなどこれまで一度もない。
もしかしたら断るための嘘なのかもしれないが、確かめようとも思えない。
(まぁ、仕方ないんだけどね·····)
藍色のランドセルを背負うと、昇降口で運動靴に履き替え、鈍色の空を見上げてため息をついた。
彼女のせいではない。
今さら服装の趣味を変えることもできず、愛想良く振る舞えない自分が悪いのだから。
それに中学は母親の希望により私立の学校を受験して、そこに進学する予定だ。
泣いても笑ってもあと数ヶ月。
そう思えば我慢できる。
だけど、きゃあきゃあと楽しそうにじゃれ合いながら下校する児童の群れを見ていると、なんとなくやりきれなくなってくる。
自分だって地元にいればあの中にいられたはずなのに。
(みんな、どうしてるかな·····)
懐かしい友達との思い出を噛みしめながら歩いていたところで、鼻先にポツン、と冷たいものを感じた。
(ー雨だ)
そう思ったが早いが、雨足は急激に強さを増してきた。
やばい、と傘を持っていない真咲は、近くの屋根付きのバス停へと逃げ込んだ。
薄いプラスチックの屋根を激しい雨がドタドタと打ちつける。
「そういえば朝、お母さんが傘持ってけって言ってたな」と思い出すがもう遅い。
どうすることもできないまま、真咲はバス停に佇んだ。
雨はいつ止むとも知れない。
遠くの空を睨むが雲の切れ目は全く見えない。
途方に暮れていると、目の前に一台のバスがゆっくりと滑り込んできた。
ぎゅうぎゅう詰めの車内から、ひとり、ふたりと乗客が降りてくる。
客はバスに乗ろうとしない真咲のことをすれ違い様に奇異な目で見ていったが、すぐに傘を開くと興味が失せたように歩き出した。
33
95
コメント
1件
うわあ、このエピソード、すごく切ないですね……。真咲ちゃんの「周りに溶け込めない」感じが、藍色のランドセルや鈍色の空、雨の描写に全部重なって見えてくる。学級委員の子の「だからごめんね」の言い方が、優しさの裏に壁を作っているというか。傘も持たずにバス停に逃げ込むラストも、誰も助けてくれない孤独感がじんわり伝わってきて、続きがすごく気になります。