車に乗せて逃げ場を失くし、部屋まで連れて来てはみたが、
そこからどうすればいいのかが、わからなくなっていた。
付き合いのあった多くの女性たちのように、向こうから誘ってくるようなこともなく、
警戒心を顕わにしている目の前の彼女を、無理に襲うようなこともできずに、
ただ、いたずらにワイングラスを重ねていた……。
酔えば、自分自身もその気になるのかもしれないとも思っていたが、
どう仕掛けるべきかの機会すらも掴めないまま、退屈な時だけが過ぎた……。
やがて沈黙に耐えられなくなった彼女が、
「……こんなことのために、私を部屋まで連れてきたんじゃないでしょう?」
そう口を開いて、
「こんなことも何も……私は、あなたとワインを愉しみたいだけですから……初めに、そう言いましたよね?」
彼女は一体どういうつもりでそんなことを言い出したんだと、横目にちらりと表情を窺った。
「そんなその場しのぎな台詞が、通用するとでも思っているんですか…」
目が合うとキッと睨み据えられて、
「……では、どうすればいいと。……こないだの続きでも、すればいいのですか?」
きっかけ作りではなかったのかと……ならばやはりこちらから誘いかけてみようかと、その瞳の奥をじっと覗き込んだ。
「……続きとか、そういうことじゃなくて、何のためにこんなことをって……」
見つめ合う眼差しに落とせるかと思った寸前に、またしても目が逸らされて、
「何のためになどと……あなたを酔わせる以外に、何があると言うんです……」
苛立ちを抑え声のトーンを低く落として呟いた。
追えば逃げるような彼女に、思い通りにはならない苛立ちはつのるばかりで、
「……私が望んでいるのは、ただひとつですから……君が、私に、自分から心も体も許すこと……」
口では落ち着き払った体でそんな台詞を吐きながらも、胸の内はざわついていて、
家へ連れ込んでから随分と経つのに、未だに落とせてすらいないことを信じられずにいた──。
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