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「誕生日おめでとう!歩美ちゃん、これ俺と森下さんからのプレゼント」
「ありがとう!開けてもいい?」
淡いブルーのラッピングを、そっと開けていく歩美。中から金色の星形のペンダントを取り出した。真ん中にはクリスタルガラスがキラキラ光っている。
「うわー、綺麗!」
「でしょ?選んだのは私よ。可愛いでしょ?」
日下が、自分の存在をアピールしている。“歩美って女友達が、まさか小学生だったなんて”と最初は驚いていたけど。
「これ、本物の金?」
「金は金でも、9金ね。女の子は19才になったら銀のアクセサリー、20才になったら純金のアクセサリーをもらうと幸せになれるんだって。歩美ちゃんにはまだ早いから9金にしたの」
私は昔、誰かから聞いた話を持ち出した。
「へぇ、知らなかった。私はとっくに20才を過ぎたから、次はきっとダイヤモンドをもらうと幸せになれる、ってことですよね?」
日下が結城を見ながら言う。婚約指輪のことなのだろうか?結城は日下のことなど気にもとめず、歩美に頼まれてスマホで歩美の写真を撮っている。
「そんなことより、歩美ちゃんの誕生日をお祝いして、乾杯しましょうか?ね?三木さん、ん?三木さん?」
少し俯き加減で、何かを考えているような三木。
「あ、すみません、なんか、こんなふうに賑やかなのは久しぶりで、うれしくて…」
「あっ、お父さん、泣きそう!」
歩美が慌ててハンカチを渡す。
「三木さん、まるで歩美ちゃんの結婚式みたいですね」
結城も笑っている。テーブル席は6人がけ。
奥さんの写真も飾ってあり、前には小さなお花とグラスが置いてある。
「「「歩美ちゃん、お誕生日おめでとう!」」」
「ありがとう」
三木と歩美は、奥さんのグラスにもカツンとグラスを当てていた。美味しい料理を食べながら、話題はどうやって三木親子と知り合ったのか?になった。
「街コン?婚活?チーフは結婚したいんですか?ってか、サラッと流してましたけど、新田さんとお付き合いしてたんですね」
_____あ、やっぱり聞いてたのね
「もうずっと昔の話だから、忘れてたわよ」
「ホントですかぁ?忘れてないから名前で呼ばれても無視したんじゃないんですか?それにしても、新田さんの奥さんは、チーフのことを知ってたんですね、元カノだって」
甘ったるい声で、核心をついてくる。これはきっと、私の答えを結城に聞かせようとしているのだろう。
こんな話、歩美には聞かせたくないなと思いつつ歩美を見たら、スマホでペンダントを撮影してSNSに投稿するのに一生懸命だった。
「そんなこと、どうでもいいだろ?日下さんには関係ないじゃないか」
結城も話に入る。三木はニコニコしながら食事をしている。
「あのね、日下さん。今日は歩美ちゃんの誕生日パーティーなの。そんなどうでもいい話をするなら、帰る?」
「そうだ、帰りなよ」
「えっ!ごめんなさい、帰りたくないです。三木さん、歩美ちゃん、ごめんなさい」
三木と歩美は顔を見合わせている。
「別にいいよね?お父さん」
「うん、若い人の恋愛の話は、聞いてる方もワクワクしてくるからね」
三木は、奥さんの写真を見ながら薬指の指輪をいじっていた。奥さんとのことを思い出しているのだろうか。
「お父さん、その言い方、すっごいおじいちゃんみたいだよ。新しい奥さんを探さないといけないのに、誰も相手にしてくれないよ、そんなんじゃ」
「奥さんはいいよ、佳奈美だけで。今はこうしてお友達もできたしね」
「そんなんじゃ、歩美はお嫁にいけない。あ、そうだ!森下さん、お父さんの奥さん候補になってください。お願いします」
私に向かっていきなりの歩美の発言に、結城が慌てている。
「ちょっと待って歩美ちゃん、森下さんは俺の奥さん候補だから!」
今度は日下が慌てている。
「えっ!結城先輩、それ本気だったんですか?冗談だと思ってたのに。結城先輩は私の旦那さん候補なんですよ!森下チーフは先輩よりずっと年上なんですよ」
_____候補って…
「あのね、歩美ちゃん、お父さんには私なんかよりずっといい女性が現れるわよ。お父さんはステキな男性だから」
_____私は小学生相手に何を言ってるんだろ?
「森下さん、お父さんのこと好きになれないの?歩美のことは考えなくていいよ」
「お父さんはステキな男性だけど、好きとか…わからないの、ごめんね」
「でも、お父さんは森下さんのことがすきだよ、街コンで怪我をした時から」
「ぶふっ!!げほっ!」
三木は、飲もうとしていたジュースを吹き出した。
「こら、歩美、何を…」
「だって、お父さん、LINEの交換した時からずっと、ニコニコしてたもん。何を話そうかなってずっと言ってたもん。お母さんが死んでしまってから初めて、そんなこと言ってたから…」
三木が真っ赤になっている。さっきまで他人の恋バナだからと平気でいたのに、突然自分に振られて汗までかいている。
「あ、いや、まぁ、そんな、ね!あはは、歩美は何を言い出すかと思えば、すみませんね」
焦ってあたふたしている三木が、とても可愛く見えてしまう。だいぶ年上の人なのに。
「なんでもいいですよ、気楽にどうぞ」
「ちょっと待って、ということは三木さんは俺のライバルってこと?」
「それを言うならチーフは私のライバルってこと?」
_____あ、なんかめんどくさいぞ、これ
「そういうことみたいですね!お父さんもみんなも頑張ってくださいね!」
小学生の歩美が、一番落ち着いていた。