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朝から晴れて、気持ちの良い青空が広がっている。
秋風がほんの少しだけ肌寒い。
昨夜の夕食に続き、朝ごはんも本当に美味しくて大満足だった。
私達は、たくさんの思い出を作り、後ろ髪を引かれる思いで旅館を後にした。
近くの温泉や観光地の撮影と取材をこなし、昼過ぎには帰路についた。
帰りは一弥先輩が運転してくれた。
2人とも安全運転で、全てスムーズに進んだ。
「久しぶりにリフレッシュしたよ。本当に良い旅館だったね。CMになったらたくさんのお客様が殺到するかもね」
「ああ、そうだな。あれだけの旅館なら、誰もが満足できるだろう。今度のCMのイメージもすごく湧いた」
「わかる。僕も今、頭の中にものすごく良いイメージが湧いてるよ。実際泊まらないとわからないよね。うまく表現できるようにみんなで頑張ろう」
「ああ、このジェクトも必ず成功させる」
男性2人の何気ない会話のラリー。
私は思わず聞き入ってしまった。
どこからどう見ても、ドラマか映画のようにしか見えない。
私はこんな2人に優しい言葉をかけてもらって、本当に幸せな人間だ。
温泉街の風流な景色にお別れし、私達は都会へと戻った。
とりあえず、朋也さんはホテルを予約したようだ。
一弥先輩とも別れ、私は久しぶりに1人の夜を過ごした。
自分のマンションの部屋にいるだけなのに、何だか変な感じがする。ずっと1人が当たり前だったはずが、今は、なぜかすごく寂しい。
いつもここに座って、一緒にお茶を飲んで、いろいろ話して……
笑ったり、少し言い合いになったり、本当に短い間だったけれど、内容の濃い時間だった。
1人だと静か過ぎる――
どう過ごしていいのかわからない。
この違和感を乗り越えるのが難しい。
朋也さんの少し低くてカッコいい声。
最初は怖いだけだったのに、今はとても好きな安心できる声になった。
朋也さんは、今頃ホテルで何をしているのだろう?
声、聞きたいな……
***
次の朝、私は1人で目覚めて、1人で電車に乗って、1人で会社に向かった。
ミーティングルームに入っても、朋也さんも一弥先輩もいない。
それでも、夏希やチームのみんなに元気に挨拶して仕事に向き合った。
必ず今のプロジェクトを成功させたい。
その気持ちだけは絶対に変わらなかった。
「恭香ちゃん、ごめん、会議の資料お願いしていい?」
「はい! すぐ取ってきます」
頼まれた資料を取りに行こうと部屋を出た時、菜々子先輩とぶつかりそうになった。
「あっ、すみません! 大丈夫ですか?」
菜々子先輩はしばらく黙っている。
私が言ったのが聞こえなかったのかな?
「恭香ちゃん」
「あ……はい」
どうしたんだろう、すごく怖い顔をしている。
私、何かしたのかな?
最近あったことを必死に思い返した。
「あなた、ちょっとこっち来て」
「えっ、あ、あの」
菜々子先輩に腕を掴まれ、近くの会議室に連れて行かれた。
「ちょっと!」
「は、はい」
「あなたね、本宮さんと自分が釣り合ってると本気で思ってるの?」
「えっ?」
いきなりの質問に戸惑いが隠せない。
「だとしたら本当におめでたい人ね。あなたと本宮さんが釣り合うわけないでしょ。見た目も違う、生活レベルも違う、何もかも違う!」
「菜々子先輩、いったいどうしたんですか?」
「私に恥をかかせたわね。あなたのせいで、屈辱だわ。早く消えなさいよ。目障りなのよ!」
菜々子先輩は、あまりにも唐突に吐き捨てた。
とがった言葉が私に突き刺さる。
ナイフみたいに痛くて、涙が溢れた。
笑顔も無い、冷たい目が怖い。
菜々子先輩は朋也さんが好き……
でも、朋也さんと私との関係を菜々子先輩は知っているの?
「菜々子先輩。私、菜々子先輩に何かしましたか? どうして私のことをそこまで嫌うんですか?」
その瞬間、菜々子先輩は豹変し、さらに怖い顔になった。ゾクッとして、心臓が止まりそうになる。
「あなたのその顔が目障りなの。本宮さんがあなたみたいな人を好きになるなんて信じられない。無性に腹が立つわ。あなた、どうせお金が目当てなんでしょ? どうやって誘惑したか知らないけど、その顔でよくできたわね。いえ、もしかして……体を使ったの? 汚らわしい」
尊敬していた菜々子先輩の言葉がすごく悲しい。
菜々子先輩も、梨花ちゃんも、同じことを言うんだ。
どうして誘惑しただなんて……心が痛くてやりきれない。
「菜々子先輩。私、そんなことしてません。それに、私はお金持ちだから本宮さんを好きなわけじゃありません。御曹司じゃなくても、私は、本宮さんが好きです」
「あなたも本宮さんが好きなの?」
鋭く睨みつけられて、足がすくむ。
「……そ、それは……」
「本当、最低ね。この、身の程知らずがっ」
菜々子先輩は、私のすぐ横に来て見下すような視線を送ってきた。