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とある夕暮れ―――
モンステラ聖皇国の東海岸に、一隻の大型船が
近付きつつあった。
その船が沖合から港まで接近し……
陸上から一帯を警備していた兵隊らしき男たちが
集まって来る。
「停まれ!! どこの船だ!」
帆船に向かって一人の兵が大声で問うと、
船内からいかにも海賊といった風体の―――
黒々とした口ヒゲをたくわえた筋骨隆々な
大男が出て来て、
「ドラセナ連邦のシルヴァ提督だ!
悪いがこの港に停泊させてもらいたい!」
返って来た答えに警備兵であろう者たちは
顔を見合わせ、
「ドラセナ連邦の船がこちらに来るという
予定は聞いていない!
いかなる用件でここに来た!?」
任務として寄港目的を問い質すと、
「こっちだって来たくて来たわけじゃねぇよ!!
船を見りゃわかるだろ!
航行中に魔物に襲われたんだ!」
シルヴァ提督の言う通り……
その帆船はところどころ、穴が開いたり
破壊された形跡があって―――
「このままじゃヤベェから寄らせてもらった
だけだ!
修復するまでの間、ここに置かせてくれ!」
彼の言葉に警備兵たちは相談し始め、
「どうします?」
「そういう事情なら仕方が無い。
港湾管理所へ行って事情を話し、入港許可の
申請をしろ。
一応、首都・イストにも連絡を入れるように。
その間に俺たちは船内に不審な物が無いか
調べておく」
そして一人が駆けてその場を離れると、
「状況はわかった。
港に入る許可が出るまで少し待て!
それと、船内を検査させてもらうぞ。
今は首都から警戒を厳重にしろと命令を
受けているゆえ」
「ああ、構わんぜ。
見てもあまり面白くないと思うがな」
そのやり取りが終わるとシルヴァ提督は
分厚い雲で覆われた夜空を見上げ、
「さぁて、お手並み拝見と行きますぜ……
シン殿」
誰にも聞かれないよう、ぽつりと小声で
つぶやいた。
「ドラセナ連邦の船が?」
「ハッ!
航行中に魔物に襲われ、船の修理をしたいと
寄港を願い出ております。
今は隊長以下が船内の積み荷検査をしていると
思われますが」
港湾管理所では責任者が、詳細を使いの者から
聞いて両腕を組む。
「魔力感知器に何か大きな反応が引っ掛かったと
思ったが、ソイツらか」
例の合同軍事演習の後―――
各国はこぞって魔力を感知・探知する魔導具の
強化・開発に力を入れており、
いわゆるレーダーみたいな魔導具が、少し国力の
ある国であれば導入されていたのである。
「来たのは一隻だけか?」
「はい。他に船は見えませんでしたが」
責任者である男は天井を見上げたり、また床に
視線を落としたりして、
「わかった。
船内検査で不審な物が発見されなければ、
入港を認める。
念のため、首都・イストにも使いを出して
この事を伝えよう」
「ハッ!
その事は隊長も言っておりましたが……
しかしここ一ヶ月の警備強化は、何を
意味するのでありましょうか」
「メルビナ大教皇様が急病で倒れられたのは
知っているだろう。
そのスキを突いてよからぬ事を企む者が
あるかも知れないと、レオゾ枢機卿様の
ご指示でな」
さすがにクーデターを起こした―――
それも他国と手を組んで大教皇を幽閉したという
情報は、上層部でシャットアウトされており、
一般人や末端の兵士は、何も知らずに
レオゾ枢機卿の指揮下で動いていた。
ただそれだけに危機感というか、
大事件が起きていると知らない彼らの警備や
防衛は、それなりのものとなっており、
「……ん?」
「どうしました?」
港湾管理責任者はレーダーに相当する魔導具を
のぞき込み、
「いや、ドラセナ連邦の船から魔力反応が
離れたような気がしたのだが―――
すぐに消えたし、しかも内陸へ向かう
方向へだ。
まさか地面を潜って来たりは出来まい」
「空はどうでしょうか?」
部下が聞き返すと彼は窓から空を見上げ、
「その可能性も無くは無い、が……
だとすると雲の上を飛んでいるのかも
知れんな。
しかも反応はごく小さなものだった。
よほど高度を飛んでいるワイバーンか、
それとも鳥か―――
一応それも報告に記載しておくか」
港湾管理責任者は机に向かうと、そのための
書類を作成し始めた。
「シン殿!
方位磁石によると、間もなくモンステラ聖皇国
首都・イスト上空に到着します!」
分厚い雲の上で、白翼族のミニ浮遊島が
進んで行く。
島の上では、浮遊島の制御を司る白翼族二名と、
ウィンベル王国の諜報機関『見えない部隊』……
そして万能冒険者、シンが待機していた。
ティエラ王女様がウィンベル王国へ、
モンステラ聖皇国のメルビナ大教皇様が
クーデターによって、幽閉されたという情報を
伝えた一か月後―――
ウィンベル王国国王・ラーシュ陛下より
大教皇様救出の密命が下った。
訓練に加え、新機軸の道具の開発……
そして何度かの人選を経て、
厳選されたメンバーで、首都・イストへと
向かっていた。
「メルビナ大教皇様が幽閉されたという、
大聖堂近くまで来たら、一度私が範囲索敵を
使い、大まかな位置を確認する―――
という事でよろしいですね?」
頬骨が目立つほど痩せた顔の、ユールさんが
確認して来る。
「はい、お願いします。
でもまさか、ユールさんが過去に関わった事が
あった人だなんて」
「はは、世間は狭いですな……」
互いに苦笑してつくづくその事を実感する。
実は彼は、かつてロック前男爵の指示で
『東の村』を襲撃した事のある人物で、
(■25話 はじめての ぼうえいせん
■26話 はじめての けいりゃく(ふくすう)
参照)
範囲索敵を使える貴重な人材でもあった。
前回、『見えない部隊』と一緒に行動した事が
あったので、その時にこちらにも範囲索敵持ちが
いるらしい事はわかっていたが、
今回いろいろと話してみて、それで過去
出会っていた事が判明したのだ。
「しかしシン殿が『境外の民』とはね。
勝てないわけですよ……」
「ま、まあ……
反則ですよね、こんな力。
しかしユールさんのような範囲索敵持ちが
いて、本当に良かったです」
私の言葉に彼もうなずく。
何せ『見えない部隊』というのは、公式な記録に
残らない、残せない作戦を行う。
私の知り合いにも、範囲索敵を使える人は―――
レイド君、ニコル君がいるが、
レイド君は公都防衛のための、いわば生きた
『レーダー』であり、おいそれとは動かせない。
ニコル君もまた、ウィンベル王国所属航空管制の
公式な一員であり軍人だ。
『見えない部隊』に参加させると、王国の
軍事行動となり……
万が一バレた際、言い逃れ出来なくなってしまう
恐れがある。
そのため、ユールさんのようなフリーの
範囲索敵持ちの存在は、大変有難かった。
「こちらこそ、裏の人間がこんな……
一国の頂点の人間を救うような作戦に
参加出来るなんて、
闇に生きる者としては、この上ない舞台を
用意して頂いて……
感謝しかありません」
確かにこの魔法前提の世界で、その上
特殊系魔法の使い手に生まれ……
活躍の場が裏社会しか無いというのは、
忸怩たる思いがあっただろう。
そこへ獣人やワイバーンといった、他の
『見えない部隊』メンバーもやって来て、
「そういえばシンさんの話だと、この浮遊島は
モンステラ聖皇国の魔力感知器に引っ掛かって
いるんだよな?」
「それは間違いないでしょう。
ただ、かなりの高度を飛んでいるのと、
動力をあのように手動にしていますからね。
反応したとしてもごくわずかだと思います。
それはウィンベル王国での訓練でも確認して
おりますし」
この浮遊島自体、魔力で浮かんでいるので
それは誤魔化せない。
ただ、浮遊島の動力である魔導具を自転車の
ように足漕ぎで動けるようにし、それを
魔力封じの腕輪をした獣人族に任せている。
「ドラセナ連邦のシルヴァ提督の協力を得られて
助かりました。
彼の船の上空にピッタリくっついて飛んで
来ましたから、魔力感知器に反応したと
しても、まさか船と空でピッタリ重なって
来るとは思ってもいないでしょう」
そう、いくら高高度に浮遊島を飛ばせ、反応を
弱くしたといえど、警戒の厳しい国境や海岸線に
近付いたらバレてしまう。
そこでドラセナ連邦に連絡を取り―――
協力をお願いしたところ、女帝イヴレット様から
連邦の名前を出さない事を条件に、
『偽装した船で、モンステラ聖皇国の東海岸に
行くだけ』という任務を……
シルヴァ提督に命じてくれたのである。
もちろん作戦内容は女帝も彼も承知しており、
ドラセナ連邦で合流後、
平面では船と重なるよう移動し―――
モンステラ聖皇国の海岸まで疑われる事なく
到着した。
その後、浮遊島にいる白翼族以外のメンバーに
魔力封じの腕輪を着けさせ、
首都・イストに向け、手動に切り替えた
プロペラ機のような魔導具で発進。
これなら最低限の魔力で、首都上空まで
潜入出来ると踏んだのである。
「雲が厚い日というのも幸いしましたね。
こちらも下は見えませんが、地上からも
浮遊島を確認する事は出来ないでしょう」
人間の姿になったワイバーンのメンバーも、
一帯の雲を見下ろしながら語る。
「では今一度、作戦手順を確認します。
首都・イスト上空に着いたらユールさんに
範囲索敵を1回だけ発動してもらい……
おおよその位置を確認」
全員がうなずく中、一人、『見えない部隊』の
メンバーではない―――
青い髪を後ろで三つ編みにした女性に、
私は視線を向ける。
彼女はメルビナ大教皇様の身の回りをお世話
していたティーネという女性で、
レオゾ枢機卿の尋問が行われた日、ただならない
騒動を聞きつけ、慌てて逃げ出し……
他の仲間たちと共に、ドラセナ連邦まで
落ち延びたのだという。
「地上までは例の魔力無しの道具で降下。
その後、ティーネさんの案内で―――
メルビナ大教皇様が幽閉されているであろう
場所まで案内してもらい、
途中、障害があれば獣人族3名でそれを排除、
救出後、ワイバーン3名にそれぞれ2人ずつ
抱えて飛んでもらって……
一気に上空の浮遊島まで帰還。
その後、息を潜めて様子見します」
様子見、というのは実はレーダーというものは、
動いている物体は見つけやすいが、
じっとしている状態の物は見つけにくいという
特性がある。
さらに、まさか真上で待機しているとは思わない
だろうという、心理を突いた作戦でもあった。
「……大丈夫ですか、ティーネさん」
私の声に、彼女はブンブンと頭を上下に振る。
今は敵地となった祖国に踏み込む、というのも
相当なプレッシャーだろうけど―――
もう一つ、ティーネさんには逃れられない運命が
圧し掛かっている。
この『見えない部隊』と行動を共にしている、
という事は、
この先、一般人には戻れないという事でもある。
『見えない部隊』はウィンベル王国でも秘中の
秘である諜報機関。
王国内ですら一握りの人間にしか明かされて
おらず、同盟諸国でもこの部隊を知っているのは
今のところ、ティエラ王女様だけであり……
今回協力してもらっているドラセナ連邦すら、
この事は知らない。
当然こちらもそのリスクを彼女に説明したが、
案内が必要なはず、と言って譲らず―――
また作戦において現地人の案内がある事が
どれだけ助かるか、という理由もあって
ティーネさんが加わったのである。
「大丈夫、です。
覚悟は出来ておりますから……!
メルビナ大教皇様をお救いするためでしたら、
どんな事でもします!」
鼻息荒く語る彼女に、『見えない部隊』の
メンバーが、
「まあそんなに固くならなくても」
「シンさんがいればたいていは解決しますし」
「それよりお前ら、シン殿だけは必ず守れよ。
もし何かあったら、奥方であるお2人に
合わせる顔が無い」
彼らの言う通り、今回メルとアルテリーゼは
参加していない。
この任務に加わるとなると、魔力封じの腕輪を
身に着けなければならないワケだが―――
妊娠している今、それを実行した場合、
お腹の子にどういう影響が出るかわからず、
いったん公都にラッチと一緒に戻って
もらったのである。
「(というより、俺たちだけ生きて帰ったら
奥さんたちに殺されると思う)」
「(一方はドラゴンだし、そっちの方が
可能性高いよな。死ぬ気で頑張らねーと)」
何やら人の嫁についてぶっそうな言われ方を
したような気がしたが……
気付かなかった事にする。
「そろそろ首都・イスト上空に到着します!」
観測していたであろうの人間メンバーの声で、
全員が振り返り、
「では全員、魔力封じの腕輪を確認。
魔力無しの道具であるパラシュートで
降下後、それは回収。
合流後、大聖堂に侵入しメルビナ大教皇様を
捜索・救出後に脱出します。
オペレーション・『見えない翼』―――
開始!」
そして私とティーネさん、獣人族三人、
ワイバーン三人が眼下の雲めがけて
身を投げた。
「レオゾ枢機卿様!
カービング港から早馬が来ました!」
「……何かあったのですか?」
病的なほど痩せた細面の白髪の青年は、
面倒そうに聞き返す。
クーデターを主導した彼・レオゾ枢機卿は、
『病気になった』大教皇の代理として、大聖堂に
君臨していた。
「ドラセナ連邦の船が、魔物に襲われ港に
入って来たそうです。
さらに、魔力感知機に異常な動きが見られた
との事で―――」
「ふむ?」
彼は人差し指の先でトントン、と豪華な机の
上面を叩くと、
「ドラセナ連邦……ねえ。
大聖堂内外の魔力感知・探知機はどうなって
います?」
「ハッ、特に異常アリとの報告は上がって
おりませんが」
その答えに枢機卿はフー、と小さく
ため息をついて、
「念のため、魔力探知機の動きに
注意させましょう。
どうせメルビナ大教皇様は『ご病気』で
あられる。
動く事は出来ないのですから―――」
「……ハッ!
ではこれにて」
レオゾ枢機卿はクーデター後、大聖堂や周辺は
自分の子飼いの部下で固めており、
また各所に大ライラック国の者を配置して、
監視もさせていた。
「ククク……
もし救出する者が来るとすれば、
ぜひとも大教皇様のいるところまで
たどり着いて欲しいものだ。
こちらとしては無理にでも連れて行って
もらいたいものだが……
出来るものなら、ねぇ♪」
その無表情な顔の口元だけを歪ませ、
彼は両目を閉じた。
「意外と見張りって少ないんですね」
「自分も元は裏社会にいた事がありますが、
まぁこんなものですよ」
首都・イストに着陸、合流後……
私たちはあっさりと大聖堂内部に侵入していた。
獣人族の言葉に、もう一人の獣人族が続き、
「監視役や警備を置いても、どうしても
スキが出ますし―――
買収されて内通しないとも限りません。
金があるなら魔導具で、って事になるんで
しょう」
そういえば以前王都・フォルロワで、
王家の宝物殿のカギの解除を依頼された事が
あったけど、
(■32話 はじめての あんろっく参照)
あの時も区域ごとに衛兵はいたけど、
意外と少ないんだな、と思った記憶がある。
サイリック前大公の屋敷に忍び込んだ時も、
警戒が厳重であるはずの奥に行くほど、
魔導具での警備になっていたからなあ。
(■106話 はじめての しんにゅう参照)
「ティーネさん、大教皇様が幽閉されている
場所はこの先に?」
「はい、おそらく―――
この先には儀式用の道具や衣装を
保管・管理する部屋があります。
幽閉されているとすればそこだと思います。
警備もそれなりに厳重ですから」
確かに宝物殿ほどではないにしろ、
祭礼で使用する物なら貴重品なはず。
盗まれてはいけない物でもあるから、
人の次にセキュリティレベルは高いだろう。
さらにそういった物はたいてい最奥の
部屋にある。
重要人物を軟禁するのであればうってつけだ。
「シン殿! あそこは?」
「あっ、あの部屋がそうです!」
扉の前まで到着した私たちは、いったん息を
整える。
全員、魔力封じの腕輪をしているし、
私には魔力そのものがない。
魔導具が反応する恐れは無いが、それでも
慎重に扉を開ける。
「……誰ですか?」
「メルビナ大教皇様!!」
部屋の中から聞こえて来た声に、ティーネさんが
その方向へと駆け出す。
だが、彼女の足はすぐに止まり、私たちが
その背中越しに状況を確認すると―――
「うっ!?」
「な、何だこりゃあ……」
そこには、跪くようにうなだれる大教皇様らしき
青年と―――
その彼に、大小様々なチューブのようなものが
取り付けられ、その先はまた様々な魔導具に
繋がっているという、異様な光景があった。
「ティーナ、あなたは無事だったんですね。
良かった……」
「大教皇様、これはいったい―――」
自分を気遣うメルビナ大教皇様に、
彼女は彼が置かれた状態を聞き返す。
「これは……魔導爆弾です。
このうちのどれか1つでも外せば
爆発すると……
レオゾ枢機卿はそう言っていました」
「そんな……」
それを聞いたティーナさんは、思わず
両ひざを地面につける。
「それに解除に成功したとしても……
精巧な魔力探知機がこの部屋に仕掛けられて
います。
もしこの部屋から魔力反応が無くなれば、
それはすぐレオゾ枢機卿の手の者に知られる
仕組みです。
……どこのお方か存じませんが、
ここまで来てくれた事は感謝します。
すぐに脱出してください。
ティーナをお願いします……」
「い、嫌です!!
私だけでも残ります!!」
「ティーナ……」
彼女がメルビナ大教皇様に抱き着く一方で、
私は『見えない部隊』メンバーと向き合い、
「ケッ! 胸糞悪い仕掛けだぜ」
「当初の予定では、なるべく目立たないよう、
痕跡を残さないようにという話でしたが」
「どうします? シン殿」
彼らの言葉に私はウンウンとうなずき、
「完全に、そして安全にメルビナ大教皇様を
救い出し、脱出させるには―――
ちょっと作戦内容を『拡大』させないと
いけないみたいですねー」
今度は『見えない部隊』メンバーが
ウンウンとうなずく。
「あなたたちはいったい何を……」
こちらの言っている意味がわからないのだろう。
大教皇様が疑問を口にするが、
「ティーネさん、ちょっとこちらへ」
「嫌です!
私は大教皇様と一緒にいます!!」
彼女は拒否の意を伝えてくるが、
「あ、そうじゃありません。
ちゃんと助け出しますよ。
獣人族の方、これから真っ暗闇になると
思いますが―――」
「大丈夫です。
俺たちが先頭になって、大聖堂の外まで
案内しますから!」
この会話にメルビナ大教皇様とティーネさんは、
ポカンとして、
「あっ」
ワイバーン(人間の姿Ver)の一人が彼女を
抱きかかえると、
「じゃあ私の側に集まってください。
暗闇になったら、大教皇様の拘束を外す。
そして魔力封じの腕輪を彼に着けてください。
その後は大聖堂の外まで駆けて、後は一気に
浮遊島まで飛びます」
「「「イェッサー!!」」」
状況が飲み込めない二人を残し、私は
能力を発動させる。
「自分を中心に水平1メートル、
高度2メートル以内にいる対象を抜かし……
かつ水平・高度半径50メートルの範囲に
対し、『無効化』を宣言する。
魔力で動く道具など、
・・・・・
あり得ない」
そうつぶやいた途端、室内の照明の魔導具が
消えた。
「……? 故障、ですかね?」
同じ頃、大聖堂内にいたレオゾ枢機卿の
部屋でも魔導具の光が消え、
「誰か―――」
と言いかけたところで、窓の外の異常に気付く。
夜であるから暗いのは当然なのだが、あまりにも
暗過ぎる。
窓に近付くと、自分がいる大聖堂のあらゆる
照明が落ちている事がわかり、
「な、何が……?」
さすがの予想外の事態に、枢機卿も困惑し、
「誰か! 誰かいないのですか!?」
するとバタバタと足音が聞こえ、
「ご、ご無事ですかレオゾ枢機卿様!」
ランプを手にした部下の一人が扉を開けて
入って来た。
「何があったのです?」
「わ、わかりません!
どうも大聖堂中の照明が壊れてしまった
ようでして」
見ると、彼の手にしているランプには
火が灯っており、
「……!
ま、魔力探知機はどうしました?
この混乱に乗じて襲撃があるかも……!」
「そ、それが―――
魔力探知機も故障してしまったようです!
今、警備の者たちがランプや松明を持って、
大聖堂内を見回っております!」
レオゾ枢機卿が窓の外をのぞくと、ようやく
あちこちで光が右に左に走って行くのが見え、
「メ、メルビナ大教皇様は!?」
「すでにそちらには確認に向かわせました!
た、ただ……」
「ただ? どうしたのですか?」
すると部下は言い難そうにしながら、
「メルビナ大教皇様の部屋までは、いくつもの
魔導具が仕掛けられております。
また大教皇様の部屋自体にも―――
で、ですので……
その技術者が来るまでは本格的な確認が
出来ないかと」
そこで彼は自分自身が、その仕掛けを命じた
事を思い出し、
「ま、まあ……
あの魔導具の仕掛けさえあれば、大教皇様は
『ご無事』でしょう……
至急、範囲索敵が使える者を呼びなさい。
侵入者がいる可能性もあります。
あ、それと私にもランプを持って来て
ください」
レオゾ枢機卿は部下に新たな命令を出し、
イスに座り直した。
「まさか……
天空に浮かぶ島、なんて」
「まあ、驚きますよね。
私もそうでしたし」
ちょうどその頃、すでにメルビナ大教皇は
『見えない部隊』の手によって、浮遊島に
『上陸』していた。
「これからいったん海岸へ向かいます。
それからドラセナ連邦経由で―――
ランドルフ帝国まで行き、そこで降りて
保護して頂きます。
帝国とも話は付けてありますから」
私は大教皇様とティーネさんの二人きりにして、
その場を離れる。
大聖堂中の魔導具を『無効化』した後、
メルビナ大教皇様を救い出し、獣人族を先頭に
外へ脱出。
すぐにワイバーンたちに魔力封じの腕輪を外して
変身してもらい、
それぞれが大教皇様とティーネさん、
私と獣人族一名、他獣人族二名を足で抱えて
飛んでもらい、
上空にある浮遊島に到着後、ワイバーンたちには
すぐ人間の姿になってもらって、再び魔力封じの
腕輪を装着させ、
来た時と同様、最低限の魔力の状態にして、
密かに海側へと向かっていた。
「でもシン殿、大聖堂中の魔導具を『無効化』
したのなら―――
もう魔力を隠す必要は無いのでは?」
獣人族の一人が質問して来るが、
「それも考えたのですが、一応、念のためです。
脱出でひと騒動起こしてしまいました
からね。
人知れず密かに脱出する、という予定が少々
狂ってしまったので。
なので、首都を抜けるまではこのままです」
「なるほど」
そう話していると、大教皇様とティーネさんが
こちらに近付いて来て、
「あ、あなたがこの救出部隊の隊長ですか?
改めてお礼を申し上げます。
この通り……」
メルビナ大教皇様が深々と頭を下げて来たので、
私は慌てて、
「いっいえ!
私はあくまでも協力者というか
何ていいますか。
あ、そうです!
取り敢えず何かお腹に入れましょう。
まだしばらくは、魔力封じの腕輪をして
頂きますので―――」
そして私は、浮遊島に設置された建物の中へ
料理をするために入っていった。