マネージャーの相馬は担当アイドル2人のマンションから徒歩5分の部屋に住んでいる。
2人のデビューまではプライベートを徹底的に見張るためマンション付近をうろつき、警察の職務質問を何度か受けたがこれも仕事だからと気にしなかった(しろよ)。
「過保護過ぎない?」
コーヒーをいれながらクスクス笑うのは、売れっ子のミステリー作家の柳川未来弥。
相馬の同居相手で幼馴染で同級生。
未来弥は5人兄弟の長男で、自宅は執筆中にうるさくて気が散ると相馬のマンションに転がりこんできた。
仕事でほとんど留守にしている相馬にとって、家賃も半々で助かるし、歓迎できるルームメイトであった…が、未来弥はほっておいたら食べるのも忘れてパソコンに向かっている。
食事を作り冷凍し、
「忘れずに電子レンジでチンして食べろよ」と相馬は口うるさく言っているが、それでも締切前は缶コーヒーだけですませている。
長く伸ばした髪を無造作に1つにくくってメガネをかけたその顔は、本人に自覚はないが美形。引きこもりに近い生活に満足し、お洒落に興味がなくいつもジャージだ。
「そのアイドルちゃん達18だろ、もう大人だ」
「でもあいつら、楽屋で、俺の前で」
「おまえの前で?」
えーっと、えーあーえー。
「キスでもした?いーじゃん、自然にそうなったなら」
何故わかる、このとんでもない秘密を。
顔に出てるからだ、赤面してる。
「良くない、まだデビュー半年、足元も固まってないヒヨコなんだよ」
「ヒヨコ?18って俺達もとっくにキスしていた年じゃん」
そう。
相馬と未来弥は恋人同士。
人知れず高校時代から。
「自分は良くて彼らはダメなの?」
「彼らは人であって人じゃない。ファンの女の子達全ての輝く星のような存在なんだ」
「あ、それダメな考え方。古い古い」
「古くない。ネットの書き込み1つで潰される時代なんだから」
まあ、それはあるね…と未来弥は相馬にコーヒーを注いだ湯呑みを手渡した。
「ありが…熱っ!おまえ、コーヒーはカップに注げ」
「飲めたらいいじゃん。おまえ神経質過ぎるよ」
いや、常識の問題だ、これでは嫌がらせだ。
「で、相馬は久しぶりのオフだよね。俺も仕事に区切りがついたからゆっくりできるよ。外食して飲みにでも行く?」
「いや、このまま過ごそう」
「了解」
未来弥はニッコリ笑い眼鏡を外して、相馬の身体を引き寄せた。
莉音と礼央のマンションは3LDKで、それぞれの部屋がある。
セキュリティがかなり厳しく、住人のプライベートがきちんと守られているのがありがたい。
「はー、久しぶりに帰れたー」
ふーっ、とため息をつく莉音。
礼央はすでに手洗いとうがいを始めている。
真面目だ。
「礼央、今日のオフはどうするの?」
「自宅に帰る。家族が顔を見せろとうるさいんだ」
「仲がいいもんね、礼央一家は」
「おまえは帰らないの?」
「んーうちは…」
黙り込んだ莉音に、礼央はそれ以上の詮索はしなかった。
陽気な彼が、身内の話になると口ごもる。それにデビュー前から1度も自宅に帰っていない。
家族構成もシークレットでミステリアスな雰囲気で売り出していたから、本人達も実は互いに知らない事ばかりだった。
…身体以外は。
身体はお互い隅々まで、さらに奥まで…。
「…来るか、うち」
「え?」
「1度おまえを連れてこいと前から言われていたし」
「久しぶりの家族団欒なのに邪魔じゃない?」
「ああ。今日は両親と姉と妹がいて、少々騒がしいが…」
「家族に紹介って…恋人って認め」
「それは絶対ない」
ナイフで斬られるようにキッパリ否定されたが、莉音は嬉しかった。
部屋に1人残されるのは嫌だった。
…自分の家に帰るのはそれ以上に…。
「どうした?」
「あ、うん。礼央んち、確かご家族揃って舞台が好きなんだよね」
「ああ、他人が見たらひくくらい異常なミュージカルオタ一家だ」
言い方。
「まあ普通だけど」
は?
そして莉音は礼央の家で衝撃の事実を知る。
相手の自宅で✖️✖️✖️したらスリリング…家族から認めて頂く策もありかな…なんて考えていたが、そこは普通ではなかった(いや考える方もかなり普通じゃない)。
「はじめまして莉音くん」
ドアを開けたのは、麗(うらら)歌劇団、男役トップスターの真凛聖良。
…よく見れば礼央と瓜二つ。
背の高さもほぼ同じ。
もしかして双子?!
「昨日のコンサートは公演で見れなくて残念だった。うん、TVで見るより華奢で美しいね。ドレスを着て私の隣に立ってみない?」
聖良は莉音の肩に手を回してウインク。
「あ、あの」
「おい姉貴、こいつに触るな」
嫉妬?
礼央が嫉妬してる?
…なんて喜んでる場合ではなかった。
続く
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