テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
(…どうして?)
みぞれは重い頭を必死に抑え、どこかへ焦点を合わせようとした。
_洗面所の床、閉め切れていない水道、ぽたぽたとそこから滴る水
全てがまるでおかしく思えた。
自分はどうして、どうしてこうなっている?
ひどい耳鳴りがする
皆と合流しなくては…そう思いふらつきながら立ち上がる、だがまるで重力が強くなったかのように倒れそうになる
ぐわん、ぐわん、と視界は揺らぎ、明滅する。
まるで現実から引き剥がされるかのように、耳鳴りと目眩は世界を覆っていくように思えた
そう、思ってしまった。
「__さん!?」
「___さん!!___さ_」
誰かの声が聞こえる
…だが、これは誰だ?
__
_作用でしょうね。
女が、ひどく冷たいトーンで話す。
…__なるかは、わか____
これ以上は_
こちらに何かを話しているようであるが、それを聞き取ることができない。
まるでその言葉が、誰かによってカットされたかのようである。
(…わかってる…)
(運命は変えられない…)
「…でも……」
無意識に、そんな言葉を口にしてしまう。
途端、意識は現実に引き戻され、頭痛が少しだけ引いていく。
「…はっ…」
ゆらゆらとした感覚が襲う。
だが幻からくる不快なものではなく、ただ誰かに揺すられている感覚だ。
「みぞれさん!!大丈夫ですか!?」
声の主はレイマリであった。
「だ、大丈夫です、ごめんなさい。」
「よ、良かったぁ…心配したんですよ!?」
「…あはは…」
「…肩貸しますから、部屋に戻りましょう…?」
先程まで水道からぽたぽたと滴っていた水は止められていた。
「…あ、ありがとうございます。」
「…すみません。」
「謝らなくてもいいんですよ!!気にしないでください!」
伸ばされた手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
廊下に出てから、レイマリは聞く。
「…何かあったんですか? 」
「…え?」
「…みぞれさん、いつもより思い詰めている、というか…」
「…?私は…何も無いですけど…」
「…本当になにもないですし、風邪でももらっちゃったのかなぁ、って。」
いつの間にやらみぞれの部屋に着き、みぞれはベッドに横になる。
「…気のせいならいいんですけど…。」
レイマリは一息つき、日常的な会話に戻る。
「…あの、ロキソニンとかいりますか?」
「…お願いします。」
レイマリは優しく笑い、薬を取りに部屋から出ていった。
みぞれは考えた。
(…)
風邪を貰ったなんてものではないような気がするのだ。
幻覚、幻聴、動けないほどの目眩_
(…違う何かがある、そんな気がする。)
(…なら、なんだろう。)
違和感が、どうも拭えない。
拭っても拭っても、取れることはない。
5,082
2,074
20
そんな、ひとさじの違和感
__
「ロキソニンってどこですか〜?」
レイマリはリビングに戻ると、そう聞く。
「その棚に入ってなかったっけ?」
「ありがとうございます!」
いつの間にやらリビングに居た八幡宮が答える
空気はいくらかどんよりとしていて、居心地の悪さが伝う。
誰かが言葉を発しようとしても、凍った空気が覆いかぶさって、どこかへ消えていくような、そもそも発することを許されないような_まるで帰りの会で犯人探しをするような重苦しい感覚。
___どこかで、似たような空気を味わった気がする。
_だが、その正体は全くわからない。
どうしたらいい?
彼女の身に何が起こっている?
_そんな空気から必死に絞り出すかのように、クマ耳の少年_ぜんこぱすが言葉を紡ぐ
「…みぞれさんは、大丈夫なんですか…?」
それは心の底から心配する声。
レイマリは必死に答える。
「…きっと、風邪ひいてるだけなんだと思います!」
そんなわけが無い、風邪程度でここまでおかしくなるなんて有り得ない
だが、それを言ったらこの空気は押し潰されそうな物へ変わる、そんなことくらいなら想像できる。
だからせめて、せめてと、明るく取り繕う
「……あ、あった。」
「ありがとうございます!」
レイマリは八幡宮にそう言って笑いかけると、そそくさとみぞれの部屋へ向かった。
___
ロキソニンを飲む。
_30分程で頭痛だけは引いていき、少しなら、いいか、と みぞれは目を閉じる
深い深い、眠りにつく。
_…気がつくと、暗い自室で目を覚ます。
(…電気、消した覚えないんだけど…)
誰かが消してくれたのかな_そう思い、ゆっくりとベッドから立ち上がり、電気をつけようとする。
だが、つくことはない。
カチカチカチカチ、と何度スイッチを押しても、一向に反応しない。
「…誰か_」
自室の扉を開ける。
_途端、焦げ臭い臭いが鼻を通り抜ける
_これはなんだ。
__ただでさえ何も思い出せないというのに、
「…!!」
みぞれは振り返ると、廊下のどこかから来る光で、枕元にプレゼントが置かれていることに気がつく。
目眩や幻覚は落ち着き、今日が誕生日であったことを思い出す。
みぞれは動揺し、どうしたらいいか分からないといった様子でプレゼントの紙袋を開ける
そこにあったのは、時計だった。
宝石が少し施された、美しい腕時計。
「…あ、ぁ、」
途端___みぞれは、言いようのない感覚に飲まれそうになる。
_この時計を、見たことがある。
窓を開ける。
橙色が、目に留まる。
夕日よりも残酷な橙色、そこから伝わるあまりに残酷な熱
吐き出す息に熱が籠る
炎が開けたままの扉を飲み込む
煙の臭いが強い。
光が 黄色の光が目を突き刺すようだ。
「…いや、だ…………」
「ぁああぁあぁ゛あっ!!!」
「めめさんは…!?茶子さんは…?レイマリさんは…」
「…あぁ。」
「…私、ずっと、」
「…ごめん、ごめんなさい」
「何も、出来なくてごめんなさい…」
「…これ」
「…前も…」
その言葉が、勝手にみぞれの口から出る。
_これはきっと夢だ
みぞれは腕時計を手に取り、針を回す箇所に触れ、その針を一心不乱に戻す。
ただ、ただその針を戻し続ける
……………
「…わたし、が…」
わたしが_そう掠れて震える声で言い、煙の臭いに飲み込まれると同時に、意識は闇に引きずられていった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!