テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
教室は、今日もやけに静かだった。
いや、音がないわけじゃない。
笑い声もあるし、会話もある。
でも全部、同じ音に聞こえる。
「大丈夫だよ」
「気にしないで」
「全然平気!」
——そればっかり。
誰かが消しゴムを落としても、
誰かがミスしても、
誰かが明らかに落ち込んでいても、
返ってくるのは決まって、同じ言葉。
「大丈夫だよ」
(いや、絶対大丈夫じゃないだろ)
心の中でそうツッコむ。
でも、口には出さない。
出したら、変な空気になるから。
……いや。
“変な空気になる”って、なんだ?
もともとこの空気の方が、変じゃないか?
⸻
「ねえ」
気づけば、声に出していた。
近くにいたクラスメイトが、にこっと笑う。
いつも通りの、完璧な笑顔。
「どうしたの?」
「さっきさ」
僕は少しだけ考えて、でもやめた。
遠回しにするのは、面倒だ。
「本当は、ちょっとイラついてたでしょ?」
一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ、そいつの表情が止まった。
でもすぐに、何もなかったみたいに笑う。
「ううん、全然」
即答。
間髪入れず、優しい声。
……速すぎるだろ。
「そっか」
適当に返して、前を向く。
黒板の文字がやけにぼやけて見えた。
⸻
(気持ち悪いな、この世界)
⸻
「お前さ、」
学年トップの優等生に僕は話しかけていた。
「どうしたの?」
ニコッと皆と同じ……
少し違う笑顔で話した。
「お前さ、誰にでも同じ顔してるよな」
「そうかな?」
「好きな奴にも、嫌いな奴にも同じ」
「………みんな、大切だよ?」
「じゃぁさ」
少し間を開ける
「僕のこと、好き?」
「うん、好きだよ」
軽いな。
違和感はここだけじゃない。
⸻
クラスメイトが転ぶ。
「あ、ごめん」
「大丈夫だよ」
「気をつけなよ」
転んだクラスメイトは明らかに涙目で、痛そう。
「いや!普通に痛いんだろ」
「ううん。大丈夫だよ」
⸻
他にも
「お前やば!?」
相変わらず笑っている。
「…今、イラついた?」
「ううん、全然。」
…隙がない。
⸻
「ねえ」
「どうしたの?」
「なんでそんな優しいの?」
「…みんなが大切だからだよ」
君もか
⸻
先生がひとりの生徒を怒る。
「ちゃんとやりなさい 」
「大丈夫だよ!」
「気にしなくていいよ!」
(次頑張れとかだろ)
⸻
「トマトが家に沢山あるんだ。あげるよ」
「ありがとう」
あれ?あいつトマト嫌いじゃなかったっけ?
「トマト、無理だったんじゃないの?」
「ううん、平気だよ」
「え?顔めっちゃ嫌そうじゃん」
「そんなことないよ」
ずっとそんなことばっかやっていた。
ある日、
「本当はさ、どう思ってんの?」
「………うざ……」
一瞬
「え、今!」
「ううん、なんでもないよ!」
「ぇ、でも!」
「なんでもないよ!大丈夫!」
「大丈夫って便利な言葉だよね」
「そうかな?」
「だって、何も考えなくていいじゃん」
「怒らなくていいし、嫌にならなくなっていいし」
「……」
お?
初めて困惑するところが見えた
「で?本当はどっち?」
「我慢してんのか、何も感じていないだけか、」
「どっちでもないよ!みんなが大切だから_」
「毎回同じ理由じゃん!!心ではなんも思ってないんじゃないの?笑」
「……」
みんなが見ている。
その中で1人が入ってくる。
「そこまでにしたらどうですか?」
優等生だ。
「お前もさ、空っぽだよ。」
「そんなことないよ。」
「じゃぁ、証明してみてよ。」
「ほら、言えよ嫌いって」
「言えないなら、それ”優しさ”じゃなくて”逃げ”だよ。」
「そんな事しなくても」
「………嫌い……」
僕にとっては嬉しい限りだった。
でも、
バタン
優等生が倒れる。
周りも動かなくなった。
音が消える。
誰も瞬きをしなくなる。
空気が重くなる。
スピーカーからノイズがはしる。
声が聞こえる。
「感情は制御されている。
”平和”の為に本音は消されたのです。」
なんの声かは分からない。
AIのような人間のような。
「…こんなの優しいって言わねぇよ。」
「ただの”無関心”じゃん」
「こんなの、勝ちじゃない…」
「そんなことは。__」
「負けてもいいから!!!本音は、、あった方がいいだろ。」
⸻
教室
いつも通りの朝。
「大丈夫だよ。 」
「気にしないで。」
変わらない日常。
誰かがミスをする。
「大丈夫だよ 」
「大丈夫だよ」
……あれ?
(なんで今、同じこと言った?)
違和感。
違和感?
なんだそれ
「気にしないで」
周りと同じ笑顔。
「この世界は、今日もやさしい」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!