テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
・.。. .。.:・
「まさか、これに乗るの?」
ジェニは、パーキングメーターの前に優雅に停止しているバイクを眺めた、ジェニはバイクの専門家ではないし、バイクのことなど全く知らない、道で走っている所を見ただけだなので、このバイクが街でよく見かける原付バイクではないのだけは理解できた
しかし・・・こんなにいかついバイクは見たことがない、ジェニはその優雅な赤と黒の滑らかなボディをマジマジと観察して言った、これはバイクというか何かのマシンと言った方がピッタリくる
「あなたが送ってくれると言ったから・・・てっきりあなたのジャガーだと思った・・・こんなの乗れないわ」
どう見ても悪い男が乗るバイクだ、艶々と街灯に照らされて光っている、そしてどこか自信ありげな存在感がすごい、悪い男でもどこか洗練された悪い男だ、そして彼に良く似合っている
ふと通りの向こうからこのバイクをスマホで撮影している人を見つけた
「どうしてこのバイクを撮ってるの?」
「日本に数台しかないから珍しいんじゃないか?イタリアのバイクなんだ、あと映画にも出てたからな、バイクに乗ったことがないのか?」
竜馬が聞く
「わ・・・私はそういうアクティブなタイプではないもの、乗るわけないでしょう?」
「乗ったことがないのに、どうして自分のタイプじゃないと思うんだ?」
竜馬がからかうようにジェニを見た、途端にムッとして言った
「危険だわ!」
「運転が下手なヤツにかかればな」
竜馬はドゥカティの方に歩いて行ってまたがった、ジェニは反論しようとして目を見開いた、癪に障るがバイクにまたがった彼は悔しいぐらいにセクシーだ、まるで何かの広告を見ているよう、思わずジェニはバイクに乗っている彼を、スマホに撮って収めたくなった・・・後で見返せるように
「ミ・・・ミニスカートでまたがれるわけないでしょう?」
パンツが見えちゃうじゃない!ジェニは少しバイクに歩み寄ったが、そこからは動かなかった
「ふむ・・・それもそうだ」
竜馬がバイクから降りてきて、ジェニのバッグを手に取って、シートのフロントボックスに収め、メッシュジャケットを脱いだ、そして、それをジェニの腰にエプロンの様に巻き付けた
「これで大丈夫だろう?後ろのスタンドに足を乗せてまたがるんだ」
ジャケットはジェニの膝まで隠してくれたので、大人しく従ってスタンドに足をかけて勢いをつけてまたがった、その時ジャケットが太ももまでずり上がった、慌ててジャケットで太ももを隠しながら、どの程度まで竜馬に見られただろうかと思った
顔をあげて彼の表情を探ると、彼の視線はジェニの股間にとどまっていた・・・間違いない、余す所なく、ジェニのピンクのパンティーは見られてしまった
「よし・・・大丈夫だろ?」
竜馬の目には、いつものしかめっ面ではなく、さっきのレストランでリラックスしていた彼の時の様に、楽しげな輝きがあった、ジェニは後部シートにまたがり、掴まる所はないかとキョロキョロ探る
「どこにつかまればいいの?」
「僕だ」
・・・なんて適切なのだろう
「あ・・・あの・・・やっぱりタクシーで帰るわ、電車もまだある時間だし・・・」
「もう遅い」
竜馬はミラーにかけてあったフルフェイスのヘルメットを取った
「試してみないとわからないだろう?意外に気に入るかもしれないぞ」
そう言う彼に、スポっと青いヘルメットを被せられた、そしてボディに釣ってあったもう一つの黒いヘルメットを自分は被った、彼は轟音と共にエンジンをかけた、途端にジェニの心臓がドキドキ言い出した、思わず彼の腰に手を回し、振り落とされないように捕まろうと前方にすり寄った
走り出したら話せなくなるだろうからと、ジェニはバシンッとヘルメットのサンバイザーを上げて、身を乗り出し、バイクのエンジンにかき消されないように大声を張り上げた
「ちょっと、あなた!ワイン飲んでたんじゃない?」
竜馬が振り向き、自分のヘルメットのサンバイザーを上げて大声で言った
「グラスに注いだだけだ、あれを空けないとカッコつかなかっただろう?」
そういえば彼はワインには口をつけず、食事の時も水を飲んでいた事を思い出した
ジェニがハイヒールと二人で飲むつもりで奮発したワインの事を、彼はちゃんとわかってくれていたのかもしれない、最も会計は全部彼が払ったけど・・・それでも、もう一言言わないと気が済まない
「ねぇ!絶対安全運転にしてよっ!こんな危なっかしいバイクで二人とも死ぬはめになったら、昨今の日本の交通事故の比率は車が6割でバイクが3割でバイクと車の接触事故率は――」
バシンッと竜馬にサンバイザーを降ろされて、ジェニの声はヘルメットの中でくぐもって聞こえ、何を言ってるのかわからなくなった、すかさずジェニがサンバイザーを勢い良く上げた
「(瞬き)という映画を観たわっ!バイクで交通事故を起こした主人公が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)にかかって――」
バシンっとまた竜馬がサンバイザーを降ろして黙らせた、ジェニは最後の言葉を言えなかった無念に怒りが湧いた
「おしゃべりはここまでだ、僕を信じろ、初めてだから優しくしてやるよ」
一段と竜馬が空吹かしでバイクをうねらせると、ジェニは震えあがって必死に竜馬にしがみついた、そして出発して建物から遠ざかるうちに、竜馬への腹立ちより、バイクへの不安の方が勝ってきた
ジェニはきつく彼の腰に腕を回した、夜の御堂筋の6車線は、車も少なく、半ブロックもいかないうちに信号待ちで止まる、ジェニはサンバイザー越しに信号が赤から青に変わると同時に、目を閉じ、竜馬にギュッとしがみついた
バイクは信じられないスピードで発進した、まるで自分が弾丸ミサイルになった気分だった
御堂筋から夜のライトアップされた高速道路を西に、二人は走った
光も建物も後ろに吹っ飛んでいった、あっという間に高速を降りると、右手一面に大阪城が暗い夜空にライトアップされて浮かんでいた・・・広大な堀と石塁の風景がジェニの目に飛び込んできた、思わずジェニはその美しさにヘルメットの中で歓声をあげて見とれた
この時期の大阪城公園は、幻想的な光とレーザー光線でライトアップされる、そこから二人を乗せたバイクは東に進み、二つの川に挟まれた中之島西エリアのライトアップされた橋梁や、レトロ建築最新のビル街から成る、美しい夜景の中を走った
生まれてからずっとこの街に住んでいて、こんな美しい景色を知らなかったなんて・・・ジェニは人生の半分を損していた気分になった
そして気づいた、竜馬はジェニにこの夜景を見せてくれるために、遠回りしていることを・・・
#恋愛
イツカ
854
百はな🍑
4,289
コメント
1件
ああ、このエピソード、すごく良かったです。 バイクに乗るシーンの緊張感と、ジェニのドキドキが手に取るように伝わってきました。特に「僕だ」って掴まる場所を言う竜馬の台詞、痺れましたね…あれは反則です。 それと、最後の夜景を見せるための遠回り。ワインを飲まなかった伏線も含めて、竜馬の細やかな優しさがじんわり沁みました。いいエピソードでした。