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3 マキアート
晴れ渡った空に、ドス黒い雲がひとつ浮かんでいた。
まるで自分の心の中の何かを映し出している様で、乱数は足速に歩く。
「雨降りそー……」
誰に聞かせるでもなく、不愉快な気持ちを吐き出すと、先ほどから煩いスマホの画面を確認した。
——ウザいおねーさん——
自らが設定した不愉快な文字が写し出された画面に、一層不愉快になり舌打ちをする。
「はいはーい!乱数だよー♡ご用件をドウゾー」
『ちっ。飴村。あいつは見付かったのか?』
電話の先から不愉快で偉そうな女の声が聴こえてくる。
「あいつぅ?ボクわかんないなぁ」
あいつだのそいつだの、どいつだと言うんだ。
吐き気を抑えながら電話先の相手にビジネスライクに対応する。
『貴様あまり舐めていると……』
「社長。代わりましょうか?」
空気の読める優秀な秘書に、ふわふわラテの様な安堵を覚える。
ダイジョーブ、と口元を動かせば、頷き、代わりに煙草に火をつけて一度ふかした其れを渡された。
『飴村、聴いているのか?!』
(聴いてませーん)
ガシャン!
もう幾つ目かわからないスマートフォンを地面に叩き付け、強引に通話を終わらせた。
「らむだ、スマホ壊しすぎ」
解るけど。
と言いながら、まるで煙草の火を消す様にスマホをヒールで破壊する秘書。
僕の可愛い陽葵。
絶対に手放しちゃダメだな、と煙草を咥えた口の端を上げた。
新しいスマートフォンの契約手続きをしながら、陽葵は思案していた。
あの日全てを壊して行ったあの女を、中王区の連中が探している。
どういうことなのだろうか。
「陽葵、どうしたの?」
眼前に、桜色の海が広がる。
スマートフォンを破壊して、新しいものを契約しに来た主だ。
この人は、モノなんて換えが利く『だから壊れても構わない』といつも言う。
自分のことすら大切にしない彼は、私達3人のことは宝物の様に扱う。
——歪んだ愛情。
そんな言葉がぴったりだった。
「社長、先程の件について、です」
耳元で手短に伝えれば、100のことを理解してくれる。
頷いた乱数に目配せをし、腕時計を見遣りながら担当スタッフを急かす。
「あと、どのくらいかかりますか」
遠くでは、雷が鳴っている様だった。