4 ショコラータ
「ツイてねぇなー」
土砂降りの中、公園のベンチにもたれかかる。
先程博打で全財産を無くし、遊技場の軒先からも追い出された。
まったく、人情ってもんがねぇな。ぶつぶつと言いながら、帝統はびしょ濡れのベンチに横たわった。
無くして困るものは特にない。
「あ、スマホは大事にしねえとな……」
あいつと……いや、あいつらと連絡がとれなくなるからなー。そう呟いて仰向けになる。
「げんたろーにでも連絡してみるか……」
「はっ?!だいす?なにやってるの!生きてるの?!」
聴きなれた心地いい声が響く。
自分だけに向けられた声だ。
「死んでねえよ」
目の前には、起き上がり目尻を下げる自分とは対照的に、しゃがみこみ眉を下げた陽葵が傘を差し出していた。
「とりあえず、うちに、来る?」
それを拒否をする理由などなかった。
社長のスマホの契約は無事に終えたが、雷雨で話し合う気分にもなれなかった。
お互いゆっくり考えをまとめてまた明日にでも……と別れた道中。
どう見ても、見知った男が公園のベンチで雨に打たれながら横たわっている。
晴れているなら見なかったことにしたかもしれないし、幻太郎に連絡でもしたかもしれない。
「まったく、わたしが通りかからなかったらどうしてたの?!」
びしょびしょの大型犬をタクシーに乗せる訳にもいかず、そのまま徒歩で家路につく。
濡れるのが嫌で、大きめの傘を使っていたのが幸いした。傘は背の高い帝統が持ってくれているが、本人はほとんど傘の外にはみ出てしまっている。
「帝統、濡れてるよ。もっと寄って」
「そんなことしたら……陽葵……が濡れるだろ」
照れたような笑みに見えたが、すぐにそっぽを向いてしまったため真相はわからなかった。
「お前、こんなデカいとこ住んでたんだな」
オンナの一人暮らしには些か広すぎるような気がして呟くと、リビングダイニングの他に、寝室と書斎とウォークインクローゼット、そして客間にはバスルームがあると言われた。
「乱数が、僕の秘書ならここじゃないとダメ!って。あ、ここで待ってて」
やけに広い玄関先で、差し出されたタオルで頭を拭いていると陽葵がカフェラテを手渡してきた。
「あ、甘いやつじゃないからね」
「俺も餅のせてほしかっ……なんでもねえ」
俺は何を言っているんだ?
こいつが来てから、何か変だ。
違法マイク……なわけないよな。こいつに限って。
「帝統。飲み終わったなら、お風呂入っておいで。風邪ひくよ」
着ていたものは下着まで全て洗濯機に入れさせられ、湯に浸かっている間にごうんごうんと洗濯されてしまったようだ。
何故ここまでしてくれるのか?
ダチだから?
「げんたろーでもここまでしねえよなあ」
考えは纏まりそうになかった。
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