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探索2日目の昼過ぎに『小鬼の洞穴』6階層へと足を踏み入れた俺とテオは、その後全く苦戦することもなく先に進んでいった。
それが分かったうえ、剣での戦いに慣れた俺が毎回1人でサクッと戦闘を終わらせたからだ。
夕方には、9階層の最深部に到達。
ダンジョンボスが待ち構える10階層へ続く階段も早々に見つける。
だが階段を下りるのは大事をとって翌日に回し、その日は早めにテントを広げて休むことにした。
翌日のボス戦に向け、俺達は作戦会議をしていた。
事前にテオに聞いていた情報によると、ダンジョンの攻略情報自体は、かなりの精度で世界中の冒険者ギルド及び冒険者達の間で共有されているのだそうだ。
元々は“何でも屋”に近く、人々からの依頼をこなすのが仕事のメインだった。
掃除や収穫の手伝いといった非力な子供でも可能な依頼から、特定の魔物の討伐・生産に使う素材アイテム採集まで依頼内容は様々。
中でも国と国との間の輸送・強い魔物のドロップ品採集など高額報酬が発生する依頼の場合、その過程で自衛したり魔物を討伐したりできる強さが必須となる。
比較的平和な世の中において、身一つで高収入を見込める仕事はなかなか無いため、旅の冒険者には高い戦闘力を持つ者が集まりやすくなっていた。
この世界にあふれる魔力に『闇属性の魔力』が混じることで各地の魔物が狂暴化。
さらにダンジョン化現象がいくつも発生したことで、依頼のほぼ全てが魔物討伐関係となってしまった。
その影響で戦いに自信が無い者達は冒険者を廃業していき、残ったのは“腕に覚えがある者達”ばかり。
国や街は魔物達に対抗する手段として、戦闘に慣れていない一般人を鍛えるより、冒険者達に任せるほうがよいと判断。
冒険者ギルドへ異常発生した魔物の討伐依頼を出したり、ギルドへの各種支援を強化したりなどで冒険者達の活動を支えている。
その支援の一環で、ダンジョンに関する情報提供へは懸賞金がかけられ――懸賞金の額は、情報の重要度により決定――、ギルド側で真偽を確かめた後、その情報は無償で一般公開されているのだ。
とはいえギルド公開のダンジョン情報はチェック済みで、各階層に出現する魔物の種類等はもちろん、ボスの詳細も頭に入れたと。
テオから色々話を聞いた俺も、既にひととおり事前情報を把握している。
逆に俺は、【光魔術】によるダンジョン浄化方法――「神様に聞いて知った」等とごまかしながらも喋れる範囲で――を、ある程度はテオに教えておいた。
目の前に広げた紙の図を前に、テオ主導で話し始める。
「まずこれが、小鬼の洞穴の最下層・10階層の見取り図。9階層に繋がる階段への扉が壁にあるだけで、特に障害物もトラップもない、30m四方ぐらいの小さな部屋がひとつだけ。そんで、ここがダンジョンのボス部屋でもあるんだよね」
「この扉からはいつでも逃げられるんだよな?」
見取り図の扉部分を指さしつつたずねる。
その質問に「うん」と答えたテオは、腰に付けた魔法鞄から『手のひらサイズで卵型のアイテム』を取り出して見せてきた。
「戦闘中危なくなったら、部屋から出さえすれば、ボスはそれ以上追ってこないはずだよ。ま、普通に逃げられりゃそれでいいんだけど、そううまく行かない状況の時もあるだろ? そういう時に便利なのが、この『発煙手榴弾』なんだぜっ」
「あぁ……そういえば、エイバスの街でも『逃走用に一応買っとけ』って言ってたもんな」
ゲーム中にも存在するスモークグレネードは、刺さっているピンを抜くと5秒後に大量の煙幕を発生させる事が可能なアイテムで、逃走や奇襲の際によく使われる。
テオに強く勧められて買った数個が、俺の【収納】にも入っているのだ。
「まぁこのダンジョンのボスはそんなに強くないから、たぶんスモークグレネード使わなくても余裕だと思うけどさ……何があるか分かんないし」
「持っとくに越したことはないな」
「そうそう。で、10階層に出現するボスはLV5のゴブリンリーダーなんだけど、普通のゴブリンリーダーとちょっと違うんだよね……」
テオは喋りながら見取り図の下に重ねてあった情報メモを取り出した。
内容は既に知ってはいるものの、俺も念には念を入れ情報に目を通していく。
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名前 ゴブリンリーダー
種族 ゴブリン
称号 ゴブリンの統率者:ゴブリン達を従える者
土の魔物:肉体が土属性の魔力で構成される者
魔王の僕:肉体が完全に闇魔力で覆われる者
状態 健康
LV 5
■基本能力■
HP/最大HP 103/103
MP/最大MP 24/ 24
物理攻撃 36+8
物理防御 27+3
魔術攻撃 11
魔術防御 18
■スキル■
<称号『ゴブリンの統率者』にて解放>
剣術LV3:剣技での攻撃力が27倍になる
同族召喚LV3:自分より低レベルの同種族の者を10体まで召喚できる
<称号『土の魔物』にて解放>
土特性LV1:自身の全ての攻撃が土属性攻撃になる
風属性攻撃で受けるダメージ増加
水属性攻撃で受けるダメージ軽減
<称号『魔王の僕』にて解放>
魔誕の闇LV5★:周辺の魔力を増幅し、攻撃的な魔物を生み出しやすくする
魔王の援護LV5★:特定の条件下で、魔王の援護により強化される
■装備■
錆びた剣(物理攻撃力+8)、破れた毛皮(物理防御力+3)、ぼろぼろのマント
●出現
小鬼の洞穴10階層・ボス部屋
※一度倒した後は8時間程度出現しない模様
●特徴
戦闘開始時に【同族召喚LV3】スキル使用
※以降は仲間ゴブリンが3体以下になると使用
※LV4以下の棍棒・槍・弓ゴブリンをランダム召喚
※召喚できる仲間は、場にいる者と合わせ10体
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基本能力数値や特徴などは、普通のゴブリンリーダーと変わらない。
だけどこの魔物には『魔王の僕』という称号、そしてその称号により解放された【魔誕の闇LV5★】【魔王の援護LV5★】という2つのスキルがついている。
そのうち【魔誕の闇LV5★】こそが、その周辺をダンジョン――局所的に濃い闇属性の魔力で支配し、狂暴な魔物が生まれやすいエリア――と化してしまう原因のため、このスキルを持つ魔物を『ダンジョンボス』と呼ぶ。
ダンジョンボスを倒すことで、それが復活するまでの約8時間、そのダンジョンでは魔物が生まれなくなるのだ。
そして問題は、特定の条件下で魔王の援護により強化されるというスキル【魔王の援護LV5★】。
テオが仕入れた情報では、過去に多数の冒険者が様々なダンジョンで「どのような条件なら、スキルによる強化が行われるのか?」を試したものの、結局誰も解き明かすことが出来なかったらしい。
苦笑いしながらテオは言う。
勇者は、世界においてただ1人しか存在しないはず。
普通の冒険者パーティでは、【魔王の援護】の発動条件を満たせるわけがない。
「……タクト、勇者がパーティにいる場合、戦闘開始時にボスが自動強化されるんだよな?」
「ああ。ただ……どれぐらい強化されるかは、行ってみないと確実には分かんないけど……たぶん、そんなに無茶な数値にはならないとは思ってる」
ゲームにおいて各種族の魔物のLVや強さは、出現場所などでほぼ固定されている。
それが『魔王』という存在と、魔王の援護が行われるスキル【魔王の援護】だ。
魔王は強さが固定されていないものの、プレイヤー有志の検証により「魔王のLVは、その時の勇者と同じLVである」と確認されている。
またLV毎の魔王の能力値も、LV1から最大LV999まで全て算出されており、攻略サイトをのぞけば細かく確認することが可能だ。
そして【魔王の援護LV5★】は、具体的には『その時点の魔王の能力値の10%』が『援護対象の魔物の能力数値』に加算されるスキルである。
現在の俺はLV11。
そしてゲームのLV11勇者に対応する、『小鬼の洞穴』ボスの【魔王の援護LV5★】発動状態ステータスはこちら。
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名前 ゴブリンリーダー
種族 ゴブリン
称号 ゴブリンの統率者、土の魔物、魔王の僕
状態 【魔王の援護LV5★】発動中
LV 5
■基本能力■
HP/最大HP 653/103+650
MP/最大MP 924/ 24+900
物理攻撃 36+ 44
物理防御 27+108
魔術攻撃 11+ 90
魔術防御 18+105
■スキル■
剣術LV3、同族召喚LV3、土特性LV1、魔誕の闇LV5★、魔王の援護LV5★
■装備■
錆びた剣(物理攻撃力+8)、破れた毛皮(物理防御力+3)、ぼろぼろのマント
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多数のプレイヤーの検証で、各ダンジョンにおける『勇者のLV毎の、ボス強化数値一覧表』なども細かく作られ、攻略サイトに掲載されている。
また検証では「【魔王の援護LV5★】の援護を受けた各ダンジョンボスは、普通にプレイすれば、『各ダンジョンの攻略推奨LV勇者1人のソロパーティ』でも何とか倒せる強さ」であること等も判明済みだ。
今回は、勇者であるLV11の俺以外に、LV38のテオもいる。
しかもゲームと違い【能力値倍化LV5★】スキルの効果で、俺の能力はLVの割には大幅に増加しており、だいぶ有利な状況のはず。
たぶん何とかなるだろう……とは思うけど、万が一に備えて準備だけは入念にしておかなきゃな!