「だってそうでしょう? 誰にも相談できないような状況の中、自分の力で変態ヤローから逃げるために無理だって言われた明都大合格まで勝ち取ったんだよ? それって誰にでも出来ることじゃない。こんな小さな身体で、誰にも頼らずに全部ひとりで背負ってきたんだと思うと、僕は沙良のこと、凄いとしか思えない」
「ただ……必死だっただけです……。そんな大したものじゃ……。現に私、毎日不安で不安で……」
うん、〝自己肯定感の低い〟キミなら、そう言ってくれると思ったよ?
眉根を寄せて僕の賛辞の言葉を否定する沙良に、僕は内心ニンマリ微笑んだ。
「沙良……。……すぐには難しいかも知れない。けど……もし、誰かを信じてみてもいいって思えるようになったら……その時は、僕のことを思い出してくれると嬉しいな?」
「……でも……八神さん、私……」
「急ぐ必要はないよ? 沙良のペースで大丈夫」
なるべく優しい声音で呼びかけて、ふんわり包み込むような眼差しで沙良を見つめる。
口では急がなくていいって言ったけど……なるべく早く僕の檻の中へ入っておいでね、沙良。
キミが僕の方へ逃げ込んで来てくれさえすれば、僕は出入り口をしっかり塞いで、キミを守ってあげるって誓う。
そんなことを思っているだなんておくびにも出さず、僕は沙良の手を握るような真似すらしない。
僕がキミに触れるのは、キミの方から僕に手を伸ばしてくれたその時だ。
僕の言葉に、沙良がゆっくりと頷いた。
きっとキミは、僕に過去のことを話してしまったことで……少なからず僕に心を許してしまい始めていることにすら気づいていないんだろうね。
そういう鈍感で危ういところがキミに変な男を寄せ付けるんだよ?
早くそう、教えてあげたいな?
***
その日を境に、沙良は僕を見つけるとわずかに会釈をしてくれるようになった。
そうしてそのうち、少しずつ……少しずつ……言葉も交わしてくれるようになったんだ。
最初は「おはようございます」とか「こんにちは」とか……そんな、〝時の挨拶〟だけ。
でも、目すら合わせてくれなかったときから考えると、かなりの進歩だと思うんだ。
まだまだ心を許してくれているとは言い難い状態ではあるけれど、少しずつ僕に対する沙良の表情が柔らかくなってきているのが分かる。それが嬉しくて、僕は彼女の予定や行動パターンを把握しては、偶然を装って〝出会う〟頻度を上げた。
だけど、思った以上に沙良の心の壁は分厚くて……思うように距離が縮まらないことに、僕は内心苛つき始めていた。一日も早く沙良を僕の手中へ収めたいのに。
(どうしよっかな?)
僕は沙良を効果的に手に入れる方法を考え始めた。
(ああ、そうだ……!)
僕は、最高の方法を思いついた。
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