――準備は、整った。
あの日、沙良を手中に収めるための〝最高の方法〟を思いついてから、僕はすぐに動き出した。
まずは彼女の口から漏れた、ひとつの名前――白川慎策。
その名が、僕と沙良の絆を深める計画の鍵になる。
白川慎策は四十代半ばの中年男だ。中肉中背。見た目は可もなく不可もない感じ。
これは、高校生の頃の篠宮沙良が通っていた進学塾で、数学を教えていた塾講師――沙良を苦しめた男の〝表向きの〟基本データだ。
実はこの男、調べて分かったんだけど、離婚の理由がろくでもない。
まずはひとつめの要因。
沙良が塾に通い始める数ヶ月前。白川は娘と同年代の女子高生への痴漢疑惑で捕まりかけたことがあるらしい。証拠不十分で不起訴になったものの、近所の井戸端会議であっという間に噂が広がった。家族としては、これほど不名誉な噂話はなかっただろう。
幸い職場は家から離れていたからバレなかったみたいだけど、僕から言わせれば、危機管理のなっていないクソみたいな塾だ。
それだけでも十分に夫婦関係が破綻する火種だったはずだけど、決定打は別にあった。
白川夫人がある日、夫の部屋のクローゼット奥から、娘の下着を数枚見つけたのだという――これは、調査員が元妻本人から直接聞き出した話だ。
てっきり干していた時に、下着泥棒に盗まれたとばかり思っていた娘の下着が、夫の手元に隠されていたのだ。奥方のショックを思うと計り知れない。
当たり前のことだが、そんなものを隠し持つ父親のもとに娘を置いておけば、何をするか分からない。普通に考えて、耐えられる事案じゃなかっただろう。
奥方はその日のうちに、慎策との離婚を決めたらしい。
それからもうひとつ。
これは結果論の余談かも知れないが、奥さんが白川に孕まされたのは高校卒業直前だったというオマケ話もあった。当時はふたりの年齢差がさほどではなかったことから問題視されなかったが、夫が四十を越えた今もなお、若い娘にばかり執着しているのを知って、奥さんは夫の性癖にようやく思い至ったらしい。
思い返せば、娘を生んで数年後からは夫婦生活も完全に途絶えていたそうだ。
そういう諸々の結果、奥さんから離婚届を突き付けられて、白川は晴れて(?)バツイチになったのだという。
この情報は、八神の弁護士事務所に出入りする女性調査員を通じて集めたものだ。
「大切な友人がストーカー被害に遭っていて。加害者の情報を知りたいんだ。お願い、手を貸してもらえないかな?」
子羊の顔をしてそう懇願したら、「本当はまだ、資格を取っていない朔夜くん相手にこういうことをしたらダメなんだけど……」と言いつつも、たった三日で白川の新住所や新しい勤務先、そして裏アカウント〝smile_myu〟までもが僕の手元へ届いた。どこから持ってきた画像かな? アイコンには沙良に似た感じの女の子の後ろ姿が使われていた。
もちろんそれ相応の報酬は払ったけれど、両親たちには調査したこと自体、内緒にしてくれると確約してくれた。
口止め料として、デートを一回お願いされたけれど、それぐらいで済むのなら安いものだ。好きでもない女とのキスやセックスなんて、沙良を手に入れるためなら、僕にとって大した問題じゃない。
コメント
2件
なんて男なの💢
😱