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第二十章
日常
―失われゆくもの―
激闘を終えた巫女たちは宿へ戻り、ようやく張り詰めていた緊張を解いていた。
「あー、お腹すいた! いただきまぁーす♪」
琥珀の元気な声を合図に、四人は食事を始める。
食卓には温かな料理が並び、先ほどまで命を懸けて戦っていたとは思えないほど穏やかな時間が流れていた。
「美味しい♪」
一口頬張った琥珀は、満面の笑みを浮かべる。
――けれど、その笑顔はすぐに曇った。
「(……あれ?)」
もう一口、ゆっくりと噛み締める。
「(……味が…しない…)」
困惑したまま視線を料理へ落とす。
「(羅刹くんが今日のおすすめはピリ辛の鶏って言ってたよね……)」
もう一度口へ運ぶ。
「(……でも、全然辛くない)」
不思議そうに首を傾げながら周囲を見渡す。
煉華も蒼紫も詞葉も、何事もないように料理を口に運び、穏やかに食事を楽しんでいる。
「(みんな普通に食べてるし……気のせい、かな)」
そう自分に言い聞かせるように小さく笑う。
それでも、箸は自然とゆっくりになっていった。
その様子に気付いた蒼紫が声を掛ける。
「どうしたの、白峰さん。お腹空いたって言ってたわりには、食べるの遅いけど」
「どこか具合でも悪いの? 琥珀ちゃん」
詞葉も心配そうに顔を覗き込む。
琥珀は慌てて笑顔を作った。
「え? あ、いやぁー。このピリ辛の鶏が辛くて……あはは」
「じゃあ、このアイスと一緒に食べるといいわよ。乳製品だから辛さも和らぐと思うわ」
煉華はくすりと微笑み、自分のデザートだったアイスを琥珀へ差し出した。
「ありがとう、煉華♪ いただきまぁーす」
琥珀はスプーンですくい、一口食べる。
「(……甘く、ない)」
冷たさだけが口の中を通り過ぎていく。
それでも琥珀は笑顔を崩さなかった。
「……うん、美味しい」
そう笑ってみせても、胸に広がる違和感は消えない。
立ち上がろうとした、その瞬間だった。
ふっと手から力が抜ける。
ガチャーン!!
アイスの器が床へ落ち、乾いた音を立てて砕け散った。
「……あ、あー。やっちゃった」
服に付いたアイスを見つめ、琥珀は困ったように笑う。
「洗ってくるから、みんな食べててよ」
そう言って席を立ち、足早に手洗い場へ向かった。
その後ろ姿を静かに見送っていた羅刹は、ゆっくりと立ち上がった。
「仕方ありませんね」
小さく呟くと、巫女たちへ穏やかな笑みを向ける。
「巫女さま方は、どうぞごゆっくりお召し上がりください」
そう言い残し、羅刹は琥珀の後を追うように静かに手洗い場へ向かった。
コメント
1件
ああっ、もうこのエピソード切なすぎる…!!😭💦 琥珀ちゃん、命懸けの戦い終えたばかりなのに味がしないって…しかも気づかれないように笑顔作ってるところが胸にグサッときたよ…。羅刹が静かに後を追うシーン、優しさが滲んでて好きすぎる。日常の穏やかさと、失われゆく感覚のコントラストがもう…言葉にならないよ…!! 続きが気になりすぎてソワソワが止まらないんだけど!!🌸