テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ガルディニア帝国が建国されて以来、最も華やかで、最も祝福に満ちた大婚儀の日が幕を開けた。
皇城の控室で、私は大きな姿見の前に立ち、呆然とその姿を見つめていた。身にまとっているのは、帝国の高位職人たちが総出で仕立ててくれた、純白のウェディングドレス。私の『月光の魔力』を宿した最高級の特殊な糸で編まれており、私が一歩動くたびに、ドレスの裾がまるで夜空の星屑のようにサラサラと銀色に煌めく。
「ルナリア。……言葉を失うほど、美しいな」
扉が開き、漆黒の極上の正装をまとったアレン様が入ってきた。
彼の胸元には、あの日私が贈った銀色のブローチが、純白のバラの飾りと共に誇らしげに輝いている。
アレン様は私の前に立つと、愛おしさに胸を詰まらせたような眼差しで私を見つめ、懐からあの【黒い髪飾り】を取り出した。
「最後の仕上げは、俺にやらせてくれ」
アレン様は優しい手つきで、私のプラチナブロンドの銀髪に、彼と同じ夜の黒をした髪飾りをそっと留めた。
ドレスの純白、髪の銀、そしてアレン様の黒。お互いの色を身に纏った私たちの姿が、鏡の中で完璧な一対となって映し出されている。
「準備はいいか、俺の可愛い皇后(ルナリア)」
「はい、アレン様。あなたと一緒なら、どこへでも」
アレン様が差し出してくれた大きな手に、私は自分の手をそっと重ねた。
大聖堂の巨大な扉が、重々しく、けれど晴れやかに開き放たれる。
一歩足を踏み入れた瞬間、ステンドグラスから差し込む満月のようなまばゆい光と共に、大聖堂を埋め尽くす高位貴族たち、そして城外で待つ数百万の民衆からの、地鳴りのような拍手と大歓声が私たちを包み込んだ。
「皇帝陛下、ルナリア様、万歳!」
「世界で一番美しい、私たちの皇后陛下だ!」
かつて、冷たい雨の中で石を投げられ、無能と罵られた私。
そんな私を暗闇から救い出し、世界で一番温かい特等席へと導いてくれたのは、隣で優しく私の手を握り締めてくれている、この『夜の王』だ。
祭壇の前で、私たちは神に、そして集まったすべての人々に誓った。
健やかなるときも、病めるときも、生涯をかけて互いを愛し、守り抜くことを。
「愛している、ルナリア。俺の命が尽きるその時まで、いや、魂になってもあなたを愛し続けよう」
「私も、愛しています、アレン様。私のすべてを捧げて、あなたを幸せにします」
アレン様が私のベールをそっと持ち上げ、ゆっくりと顔を近づける。
降り注ぐ銀色の光の粒の中で、私たちは永遠を約束する、最高にロマンチックな誓いのキスを交わしたのだった。
誓いのキスを交わした瞬間、私の胸の奥から、これまでにないほど膨大な、そして温かい銀色の魔力が爆発的に溢れ出した。
それは、私の幸福な感情に呼応(こおう)して発動した『月光の奇跡(ムーン・ベール)』。
銀色の聖なる光は、大聖堂の天井を突き破って大空へと昇り、ガルディニア帝国の全土を一瞬にして包み込んでいった。これまでの結界を遥かに凌駕する、美しく、絶対に破られることのない強固な『満月の結界』。
魔獣の脅威を完全にシャットアウトし、大地に永久の豊穣をもたらす本物の神聖魔法に、民衆の歓声はさらに高く響き渡った。
「見てくれ! 結界が、国中を優しく守ってくれている!」
「ルナリア皇后陛下、万歳! ガルディニア帝国に栄光あれ!」
鳴り止まない祝福の嵐の中、私はアレン様にエスコートされながら、民衆の前に立つために皇城のバルコニーへと向かった。
ふと、足元のはるか奈落にある、冷たく湿った地下室の記憶が脳裏をかすめる。
あそこで今も泥水をすすり、惨めに泣き叫んでいるであろうカイル様やリーザ様のこと。でも――今の私の心には、彼らへの憎しみも、怒りも、1ミリだって残っていなかった。
だって、私の心はアレン様がくれた溢れるほどの愛で、もういっぱいに満たされているから。振り返って怯えるような過去は、今の私の幸福の前には、ただのちっぽけな塵にすぎないのだ。
(さようなら、私の不遇だった過去。私は今、世界で一番幸せです)
バルコニーに出ると、目の前には星の海のようにきらめく民衆の笑顔が広がっていた。私が満面の笑みで手を振ると、アレン様が愛おしそうに私を後ろからそっと抱きしめた。
「やり遂げたな、ルナリア。これからは、この国すべてがあなたの味方だ。……いや、まずは俺がそなたの最初の味方であり、生涯をかけてあなたを世界一過保護に甘やかす夫だ」
アレン様は私の耳元でそう囁くと、私の薬指に輝く満月の指輪に、そっと自分の手を重ねた。
彼の黒髪が私の銀髪と混ざり合い、夜が月を優しく包み込む。
「愛しているよ、ルナリア。俺の永遠の光」
私はアレン様の漆黒の美しい瞳を見つめ返し、世界で一番、傷一つない満月のような最高の笑顔を咲かせた。
「はい、私もアレン様を愛しています。……私の、大好きな、あたたかい夜」
降り注ぐ銀色の月光と、鳴り止まない祝福の歓声に包まれながら、私たちは手を取り合い、どこまでも続く幸せな未来へと歩み出していくのだった。
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
851
鷹槻れん

54,112
#ギャップ
ひより
2,301
世羅 鈴🎨🎤
117,671
コメント
1件
わあ、ついに大婚儀の日が来たんだね…! もう最初から最後までロマンチックの塊で、読んでるこっちが照れちゃうよ(笑)月光の魔力を宿したドレスとか、アレン様が髪飾りを留めてくれるシーンとか、ビジュアルが鮮やかに浮かんできて最高だった。それに、過去の苦しみを「ちっぽけな塵」って言い切れるほど幸せに満たされてるルナリアの心境の変化がじんわり沁みた。憎しみを手放して、愛で満たされるって素敵だよね。最後の「大好きな、あたたかい夜」って台詞にグッときた…お幸せに!って心から叫びたくなるエピソードだった🔥