「なあ、リナ」
「んー? なに?」
遺跡の出口近く。
崩れた柱に腰かけながら、俺は隣の少女――リナに問いかけた。
「この世界、今どうなってる?」
リナはきょとんとした顔でこちらを見てから、空を指さした。
「んー、どうって……空は青いし、風は気持ちいいし。私的にはまあまあって感じかな?」
「……そっか」
3000万年も経ってるとは思えない、のどかな答えだ。
俺は目を閉じて、深く息を吸い込む。
昔の世界は、どうだったっけな――争い、絶望、裏切り、そして……封印。
「でさ、夢希くんって、ほんとに遺跡で寝てたの?」
「嘘をつく理由がない」
「でも、普通ならカビてるでしょ!?」
「そうならないように、封印されてた。……いろいろあってな」
「へぇー。そっか、すごいね。まるでおとぎ話みたい」
俺はリナの笑顔を見ながら、小さくため息をついた。
この子にはまだ、何も話す気になれない。
だけど……俺の能力は、今も生きてるのか?
ふと、崩れた石碑の一部に目をやった。
長い時間をかけて風化し、文字もかすれている。
俺は手をかざす。
「――覆せ」
次の瞬間、空気が震えた。
石碑のひび割れが逆流し、砕けた欠片が宙を舞い、まるで映像を巻き戻すかのように――元の形に戻った。
「うわっ!? なにこれ!?」
リナが驚いて後ずさる。
俺は静かに言った。
「……確認だ。ただの試運転」
「試運転でこんなことする!?」
リナは目を見開いて俺を見つめていたが、すぐに目を輝かせて言った。
「すごい!すごすぎるよ、それ!ねえ、他にもなんかできるの?」
「さあな。使ってなかったから……俺にもわからない」
俺は手のひらを見つめた。
3000万年の眠りの果てでも、この力は衰えていない。
けど――俺はまだ、どう使うべきなのかを決めていない。
「……リナ」
「ん?」
「お前は、なんでこんな場所に来るんだ? 誰もいないのに」
すると、リナはちょっとはにかんで言った。
「私ね、世界を旅してみたいの。誰も知らない景色とか、遺跡とか……そういうのを見つけたいの」
「旅……」
「うん!この世界って広いのに、みんな同じ景色しか見ようとしないんだもん。私は、誰も知らない“面白い”を見つけたいの!」
その言葉に、少しだけ胸が動いた。
誰も知らないものを、知りたい――か。
「……なら、俺も一緒に行っていいか?」
「えっ、ほんとに!?」
「条件がある。俺に、この時代を案内してくれ」
「うん、まかせて!――えへへ、楽しみが一つ増えた♪」
目の前の少女は、無邪気なまま笑っていた。
この世界のことも、俺のことも、何も知らないくせに――それでも、俺の前に立ってくれている。
この旅が、俺の何を“覆す”のかは、まだわからないけど。
……少しだけ、先が気になってきた。
コメント
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すごい!こんな長い話かけて!