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「これは……」
(おお、もう育ってるよ)
翌朝、すっかり凹んだミューゼによってベランダに案内されたアリエッタ達。一晩一緒にいたクリムは、お店の準備に向かっているので、7人になっている。
部屋の中心に大きな植物のベッドが置かれていて、今もパルミラとラッチが溶けながら眠っている。例えではなく、力が抜けすぎて半分泥状に変形してしまっているのだ。
そんな母娘を見て何故か安心するネフテリア。しかし要件はこの2人ではない。
「昨日ミューゼからねっとりじっくり聞いたんだけど、この木はアリエッタちゃんが持ってきた種らしいのよ」
「ねっとり……」
「一体何したのよ……」
何かされたらしいミューゼは、心配したアリエッタに慰められている。
「アリエッター、ちゅーしてちゅー……」
「何やってるのよ」
普段ならばアリエッタに対してワガママを言わないのだが、今はなんとなく甘えたい気分になっている。言葉では伝わりにくいのならば、行動で教えればいい。メレイズがジャンプを教えたように。
ちゅっ
「ぅひゃっ!?」
まずはミューゼがアリエッタのぷにぷにほっぺに口づけ。驚いたアリエッタは恥ずかしくて離れようとするが、ミューゼが抱き着いていて離れられない。
「アリエッタ、アリエッタ」
「ふぇ?」(みゅーぜのちゅーだ。みゅーぜのちゅー……)
「ミューゼさん何してるん……わたしもしたいん」
「待つのよシャービット」
混ざろうとすれば何故かパフィに止められる。一番してほしいのはパフィじゃないの?という疑問を胸に、そのまま見守る事になった。
ミューゼは指でアリエッタの唇をトントンと叩き、その指で自分の頬を指し示す。
「アリエッタ、ちゅー」
「あぅ……」(これ、ミューゼに? まじで? ほんとに? ゆるされるの?)
アリエッタの顔がみるみる赤くなっていく。誰が見てもその行動の事を理解している事は分かる。
「パフィ、いいの? アリエッタちゃんのチューが取られるの」
「いいのよ。アリエッタはミューゼが一番好きなのよ」
「……それだけじゃないでしょ?」
「当然なのよ」
パフィが1歩身を引いている理由は、出会った時の罪の意識もあるが、単純にパフィがアリエッタを愛でる側なので、好かれてさえいれば1番じゃなくても問題無い。
それに、この流れはパフィにとっても利があるのだ。
「ああやって覚えた後は、私達にもやってってお願いできるのよ」
『なるほど』
真意を知った一同は、真顔で納得した。
横でそんな欲望が渦巻いているとは知らず、アリエッタはミューゼの頬を見つめている。ミューゼに抱き着かれているせいで、かなり距離が近い。
(やります。やればいいんでしょう。やらせてください。本当にやっちゃっていいんだよねみゅーぜっ)
心を乱しまくり、それでも頑張ってミューゼの頬に口を近づけ、そして……
ちゅ
柔らかい頬の感触を口で感じ取った。
「………………」
「………………」
少しの沈黙。
と思いきや、アリエッタの頭から蒸気が立ち昇り、
「ぅきゅぅ……」
「うわっ、アリエッタ大丈夫!?」
赤い顔で目を回し、倒れてしまった。純粋になってしまった少女の精神には、自分からしたという事実はかなり刺激が強かったようだ。
そんな初々しい姿を見てしまっては、大人達は悶えるしかない。
「うわぁお。こっちまで恥ずかしくなってきちゃったわ~。まぁミューゼは可愛いから仕方ないわね」
「こ、これがラブロマンスってやつなん。アリエッタちゃんが大人になったん!」
「あ~だめだめ、可愛過ぎるの。キュンキュンしちゃうの~」
「くっ……王女の護衛たるもの、これで屈するわけには……」
「これはペロペロも教えるべきか迷うのよ。それとももっと凄い事を……」
5人とも欲望が声に出た。と思ったら、オスルェンシスとパフィが変な目で見られてしまった。言動がおかしいので当然である。
「パフィやらしー。アリエッタちゃんに何する気ー?」
「変な事しかしない王族が言わないでください」
パフィを揶揄ったネフテリアを、ミューゼが腐ったゴミを見るような目で睨みつける。昨晩、一体何があったというのか。
フレアに色々されているパフィも同意する。この家では、王族の変な所しか見ることが出来ないという決まりでもあるのだろうか。
「こほん。さて、話を戻しましょうか。アリエッタちゃんが持ってきた種を、ミューゼが育ててこんなになったらしいの。ラスィーテにこんな木とかあった?」
「無いの」
「私も見た事無いのよ」
「随分話が戻りましたね……」(ここまでほぼ脱線じゃないですか)
オスルェンシスが呆れる中、サンディとパフィがラスィーテにはこの木が無い事を明言する。
もちろんファナリアでも見た事が無い。植物には特に詳しいミューゼも初めて見る木という事で、全員納得する。
真実を知っているアリエッタは、現在気絶中。
仕方がないのでパルミラとラッチを起こし、アリエッタが目覚めるまで、ここでティータイムとなった。
「アリエッタ、だいじょうぶ~?」
「………………」
ミューゼが優しく声をかけるも、アリエッタはパフィの服に顔を埋めたまま。
(どうしようしちゃったしちゃった! ほっぺに! しちゃったあああ!)
転生してから1年経っていないというのに、挙動がすっかり乙女である。
「恥ずかしがり過ぎなのよ。ほらほらアリエッタ。ミューゼが呼んでるのよー」
「ぅ…………」
チラリとミューゼに顔を向け……目が合うだけで驚き、すぐに顔を隠した。
「だから、なんでこんなに可愛いかなー」
「シャービットもこんなに可愛くなかったの」
「認めるけど、その言い方は酷いん……」
実はこのアリエッタの感情の振れ幅は、だいたい母親の影響だったりする。エルツァーレマイアが考える『可愛い娘の理想像』には、照れ屋である事も含まれていたのだ。
本来ならばアリエッタ自身で感情の抑制はある程度可能なのだが、この感情はどうしても抑える事が出来ない。余計な本能が肉体に定着してしまっているせいで、どうあがいても顔と行動に出てしまう。
この性格についても、泣き虫と同じく肉体を創った時に無意識で組み込まれてしまった為、エルツァーレマイア本人は気づいていない。その挙動を見ては、私の娘可愛すぎ!と悶えるのみである。
そして、そんな感情がむき出しになっているアリエッタに我慢できなくなるのは、何も母親だけではない。
「パフィ……大丈夫? 血足りる?」
「だ、だいじょうぶ…なのよ……ブフッ」
可愛い姿に興奮しすぎて、鼻血を噴出し続けているパフィである。
アリエッタに血がかからないように反対を向いているが、くっついている為にアリエッタの動きは把握できてしまう。顔が血と涎で大変な事になっているが、それどころではない様子。
アリエッタが起きても全く落ち着かない雰囲気の中で、ネフテリアとオスルェンシスはどう話を始めようか迷い続け、結局強引に話を変える事にした。
「ミューゼ、悪いんだけど、今はアリエッタちゃんの事見ないでくれる?」
「……仕方ないですね」
視線を合わせると照れてしまうのであれば、アリエッタを見なければいい。というわけで、
「はい」
「……はい?」
その辺にあった大きな葉で作ったお面が、オスルェンシスからミューゼに手渡された。
「……えっ、本気で?」
「当然でしょう。アリエッタちゃんの為よ」
「は、はい」
アリエッタの為と言われて拒否できるミューゼではない。大人しくお面をかぶって、アリエッタをチラ見した。
「………………」(みゅーぜ? どしたの?)
「ほらあやっぱり変な目で見られたじゃないですか! どーしてくれるんですかっ!」
「いたたたた! そうじゃないの、もっと胸を当てて脚を絡めて思いっきり締め付けて頂戴!」
唖然とされたミューゼは怒り、ネフテリアを締め上げる。しかし嬉しいネフテリアは、さらに密着するようにアドバイスをしてしまう。
肝心のミューゼ達がグダグダしてしまい、このままでは話が進まないと考えたパルミラ。アリエッタの手を取って、例の木へと近づいた。
「アリエッタちゃん、これなーに?」
「あー……」(そういえば名前どうしよう。好きに決めてって言われてたけど、考えてなかった)
この木はアリエッタの為に作った木。エルツァーレマイアは『ラブリーアリエッタ』という名称案を出していたが、アリエッタによって即却下されていた。なので命名はアリエッタ任せである。
しかしすぐには思いつかないので、まずどういう木なのかを教える事にした。
木に生っているハート型の実を取り、みんなに見せた。
「おいしー」
「へぇ、美味しいん?」
小さな掌に乗る小さな実。瑞々しく、見た目はとても甘そうである。
それをシャービットに渡すと、さらに実を取って、全員に配っていく。
「うん、これは食べれるの。このままでも美味しそうなの」
食べ物に関するラスィーテ人の目は確かである。見た事の無い物でも、それが食用かどうかは確実に判別できるのだ。
全員に行きわたった所で、アリエッタが食べて見せた。
「むぐ……はわぁ♪」
「凄く美味しそうね。この木の事は知ってたのかしら」
「な゛…のよ……」
全員が感心して、同じように実を口に運んでいく。美味しい物を食べてご満悦な顔を直視した事で、パフィだけは震える程興奮し、返事をするだけで精一杯だが。
「甘酸っぱくて美味しいん! こんなん食べた事ないん!」
「ラスィーテ人を唸らせる程の木の実……。これは凄いわね」
「フェリスクベル様。これ増やせないリムか?」
「種が取れれば増やせると思うけど……」
実には種が見つからない。どこにあるのか考えていると、アリエッタが今度は頂上にある星型の実をもぎ取った。
「おいしー、ぱひー、みんな、たべる」
「ああ、切ってほしいのよ? 任せるのよ」
声をかけられ瞬時に復活したパフィが、ナイフを使って実を人数分に切っていく。すると中から種が出てきた。種はもちろんミューゼへ渡される。
そして分けられた実の方は、それぞれの口の中へ。
「んー! なにこれ美味しい!」
「あまーい!」
(やった、みんな喜んでくれた!)
アリエッタの為に調整された木の実は、全員に大好評である。
さらに、実をもぎ取った筈の場所には、すでに次の蕾がつき始めている。エルツァーレマイアが娘の為に作った特製の植物なので、最初に作られた野菜と同じく、1日で美味しく育つのだ。
それを知ったネフテリア達は、アリエッタ関係の野菜のやり場に悩み始める。流石にラスィーテでもないのに、そんな食べ物を広める訳にはいかない。食べ物の相場がおかしなことになりそうだからだ。
「なんだか土地は広いし、専用の農場でも作るのよ?」
『それだ』
ヴィーアンドクリームとフラウリージェの全員が働くようになれば、当然人数分の食料も欲しくなる。そこでアリエッタの野菜を使えば、食材には困らない。という事で、小さな農場を作る事が決定した。
しかし、家に関する話が着々と進む横で、アリエッタは困っていた。
(まだこの木の紹介終わってないんだけどなぁ……みんな違う話に脱線しちゃったな)
「どうしたん? 何か言いたいん?」
「しゃーびっと……」
まだ伝えたい事があったアリエッタは、大人の話に参加していないシャービットに伝えることにし、再び木に手を伸ばした。
「うん、うん。へー、そうやって……はっ? えっ? どういう事なん?」
その作業を見たシャービットは、困惑するのだった。
視線だけはアリエッタを向いていたミューゼとパフィも、同じく目を見開いていた。