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「この本にはお話が書かれているそうよ。それはどんな話?」
狐の面でも外したのか、彼女はいつも通りに話す。
「ファンタジー?童話?恋愛?サスペンス?コメディ?政治やスキル本?ジャンルじゃないかもしれないわね?海賊の話?堕天使に生まれ変わる?性別変換?詩人の一人語り?精神病者の日記?」
彼女の選択肢は回を増すたびに、深刻さが見えてきた。それほどに美顔に傷のようなシワが刻まれている。選択肢に応じようが切り捨てようが、僕の言葉が彼女のモヤを取り払えるとは思わなかった。
「ごめん、僕は何も聞いていなかったよ」
足元に崩れ落ちる岩の欠片を蹴る事も、拾う事もしない。
「はあ…あなたには何かを選択する事そのものを持ち合わせていないのね」
失望の声色だった。ただそれは、静かに怒りをためていた噴火の前触れだった、
「もう!なんで言う通りにしないの!選択しろと言っているのよ。そんなに従いたくないの。そんなに私が嫌なの。そんなにこの質問はどうでも負いの?私は貴方が選べるものをたくさん準備して、道を教えてあげているのに!どれ選べばいいじゃない。選ばなければ道は開けないわ!」
「僕は選択してるよ」
彼女の言葉を受け止めるつもりで言った。
「は?何言ってるの。選択外ばかりじゃない。それか、持論よ。持論ばかり言って、私の選択肢を消し去るじゃない、あなたは!」
僕の言葉は虚空に響くだけだ。彼女は空間と一体化した何かに成り果てている。彼女は、なにかに取りつかれて自分を見失っている。
「選択って何をしてるのよ!私の選択肢外から外れて答えてるつもり?それは答えじゃないのよ!選ばれたものの中からなんで選ばないのよ!」
彼女は僕も囲いに当てはめようとしているみたいだった。泥沼にはまりながらもがき苦しんでいる。選択肢で縛り上げているのは彼女自身のようにも見えた。
「君の選択肢にないだけで、選択してるよ僕は。君が否定しているそれらが僕の選択肢だよ」
「は…?この期に及んで屁理屈なの?どういうつもりで言っているのそれは?私の言うもの以外があるなら、話せばいいじゃない。それが選ぶという事よ。ちゃんと。その頭を使って考えてよ。選ぶのよ。いい?」
言い負かした彼女は少しだけ、落ち着きが見えた。でもそれは、権力を誇示した優越による一時の錯覚だ。