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彼女はこの世界を我が物顔で、棚を出現させる。彼女の指先の合図で真っ白な地面から棚が引き上げられたようだ。

「この本は、どこに置いてどんなふうにあったと思う?」

空っぽで寂寥感を漂わせる棚。本を抱える事を忘れた棚は、彼女の選択肢が逃げ出した本の代行役として、その空間を埋めていく。

「左上?右下?一番上の段?人には見えないような場所?手の届く位置?開いたまま置くの?そもそも棚の中じゃないかも?背表紙はこちらを向いてる?そもそも棚に入ってなかった?」

未だ彼女に奪われたままの本は、外面こそ古めかしいが、中は折り目もちぎれたようなページも見当たらなかった。だから、開かれたままた何置かれていた可能性は無いはずだった。

「さ、位置は決めたかしら…」

彼女は獣のような鋭い双眸で僕を射抜く。そこに僕自身の答えは届くのだろうか。並べられる選択肢からはみ出して、取って食われてしまわないだろうか。

「さ、あなたの理想とする位置に置きに行って頂戴」

けれど、僕は初めから操り人形のような彼女に従うつもりなど微塵もなかった。僕はその場で腹を抱え込んだ。その拍子にてから本が滑り落ちる。

「あら、手が滑ったの?それは演技?わざと?不慮の事故には到底見えないけど…。あら、お腹でも悪いの?それとも…」

僕は彼女の不安でも煽るようにうずくまり、沈黙を守っている。

「これの何がおもしろおかしいのかしら?」

心配の声色はすぐに消え去り、嵐が吹き荒れると思っていた。

「私を馬鹿にしているのかしら!そういう演技でもしたら答えなくても済むって?なるほどね、答える答えないじゃなくて、答えられないってね。貴方、いつまでそんな遊びを続けるつもりなの?そんなに私の事が…」

しおれた花のような声色に顔を上げる。

「いいえ、なんでもないわ」

彼女は言葉をこらえるように目を伏せていた。

「私、次の質問で最後にするわ。あなたにはもう、質問をしないわ。それでいいかしら…」

僕に問う訳でも無く、虚空を見つめるその姿は憂いを帯びていた。

「この本を私の見えない所に置いてきて頂戴。あなたに返すわ」

僕の手から離れていた本をいつの間にか拾い上げていたようで、手紙を海に流すような哀愁を漂わせながら差し出す。その手をつたい、彼女の目を辿ると萌えていた炎が蝋燭のように揺らめいている。

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