車の走らない道沿いに民家が軒を連ねている。黄色い太陽の光と家の陰が、石畳の道にでこぼこに広がっていた。晩夏の蝉の声が響いている。
交差点を超えると街路樹が植えてあり、風に揺れた葉の影が石畳に分解される。
注文した瞬間に毎度あり。
物よりも、時間を作るね。
俺は両手に分け持った買い物袋を片手にまとめた。
「違いは、どうもあの中だけじゃなさそうだな」
俺は親指を立てて、背後のバザールを指した。
「何のことだ?」ケマルが振り向いた。
「ここもだよ」俺は人差し指で自分の頭を指した。
「ケマル、君の言い方を真似れば、まだこの中が『壁の中』だ。そんなことに気づいたんだ。焦り、後悔、逆恨み、妬み、疑問、そういう『ものの数』だけは多くって、狭い道の上でぐちゃぐちゃにぶつかり合って、揉み合って、もやもやと渦巻いて蜘蛛の巣を作ってる。捜してる天国が、まだ見つからない。自分がとっても、とってももどかしく思えるよ」
上を向いた。目がちょっと潤んだのか、雲が引き裂かれた綿のように見えた。
ケマルは俺の肩に手を置いて、揺さぶった。
「忘れるな。高い城壁は、薄いレンガ一枚一枚が重なってでできてる」
突き当たりの大通りには路上駐車の車はなく、バスが真っすぐ走っていた。
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