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「同じ髪型ね」
ペリンさんは串焼きの皿を、サラダボールの隣に置いた。
「モード乗ってますね」
俺は頭を振って見せた。隣に座るケマルが笑う。
「ありがとう」とペリンさんは言った「でも私の場合、流行に乗ってるわけじゃないのよ」
俺は首を傾げた。
「創ってるのよ」俺は首を傾げたまま、目を細めた。
「クタイ、いいことを教えてやろう。『赤ショート』は、母さんの考案なんだ」
「冗談?」
ペリンさんは両方の手のひらを側頭部にあてた。
「偶然思いついただけよ」
「母さん、コイツに話してやってよ」
ペリンさんがかつて働いていた美容院では、美容師のスキルアップと店の目玉になるスタイル創造を目指して、練習台を募集していた。練習台になる人のほとんどは、孤児やホームレスだった。店は彼らの髪を無償で切るかわりに、髪型など一切の文句を受け付けないのが条件だ。ペリンさんはある日、髪にクセのある少年にあたった。かなりの間切っていないのは一目瞭然だった。彼女は少年の長い髪を耳が出るほど短くカットし、クセを直すのではなく生かすことを思いついた。あちこちよじり上げてみた。手元にあった赤の染料は、髪全体をムラなく染色するには足りなかった。そこで、濃淡を付けることを思いついた。
「それが赤ショートの始まりだったのよ」
「そして、その練習台に座っていたのが、十歳の俺だったってわけさ」
「この子も私も店のコ達もこのスタイル気に入ったんだけど、きっと、ちょっと新しすぎたのね。実際お客にやってみたら不評でね」
「ほんとですか」俺は目を丸めた「信じられない」
「任されてた店はそれから赤字続きで、私はとうとう首。これ、本当の話よ」
「それが今では美容院チェーン『シスターズ』の社長。母さんは、希望の星なんだ」
ぺリンさんはわざとらしく咳払いをし、ケマルが映画の中でやったように、赤ショートの頭を振って見せた。