テラーノベル
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リディアはシオンと一緒に、丸太小屋から出て外を眺めていた。天気は快晴、空気も気持ちが良いくらいに冷えている。
「シオンは、ここに人が増えたらどう思う?」
「人間が増える、ということですか?」
「ヘルミナみたいな人たち、かな」
「うーん……。ヘルミナさんは、ひとりで十分かと思います」
シオンの思わぬ返事に、リディアは笑ってしまった。
「確かに、ヘルミナが10人も100人もいたらうるさいわね。……聞き方を間違えたわ」
「でも、リディア様の味方が増えるのであれば、とても良いことだと思います」
「ふふっ。それじゃ、本当に増やしちゃうわよ?」
「わかりました。僕も頑張ります」
具体的には何も言っていないが、シオンはすぐに全てを受け入れてくれる。リディアはそれが嬉しく、誇らしく、とても愛おしかった。
「……それにしても、ヘルミナは遅いわね。まだ森の巡回をしているのかしら」
「あ……。もしかして、あれじゃないですか?」
シオンが指差す先に、こちらに向かって来る人影が見えた。しかし、誰かがヘルミナを担いでいるようにも見える。リディアとシオンは、そのまま人影が近付いてくるのを待つことにした。
「――ようよう! アンタがコイツの責任者か!?」
目の前の小さな男は、挨拶もせずに大きな声を上げてきた。男は戦士風の出で立ちをしており、歴戦の風格すら感じさせる。少し伸びた赤い髪に、赤い髭。そこから覗く眼光は鋭く、相手を射殺してしまいそうだ。
ヘルミナは地面に無造作に転がされ、シオンは自然とリディアの前に移動する。
「あなたはドワーフね。穏やかではないイメージだったけど、確かにその通りだわ」
お互いが名乗らない中、リディアは地面のヘルミナに目を落とした。気絶はしていないようだが、ダメージを受けてぐったりとしている。
「リディア様、殺しますか?」
「いえ、まずは話を聞きましょう。最初から殺そうとするのは、野蛮人のやることだからね」
「人間はいいのですか?」
「ええ。あいつらだけは、いいのよ」
シオンと言葉を交わしたあと、リディアは目の前のドワーフに声を掛けた。
「私はこの地の主、リディア。見ての通り、錬金術師よ」
「ぬ……。儂は旅のドワーフのザザだ。コイツのことで話がある!」
「この子は最近、来たばかりでね。何をしでかしたのかしら?」
「問答無用で、儂を攻撃してきたんだ!!」
リディアがヘルミナに治癒薬を使うと、彼女は咳をしながら上半身を起こした。ヘルミナはヘルミナで、ぷりぷりと怒っている。
「あたしの家の家訓なんです! ドワーフを見たら10秒以内に攻撃しろ、って!」
「ああ……。エルフとドワーフって、仲が悪かったんだっけ?」
「そんなの、いつの話なんだよ!! これだから、エルフってやつは……。しっかり外の世界に目を向けろ。この大地に住まう者同士、仲たがいしてどうするんだ!!」
「文明や文化は過去からの継承……! それを大切に扱わないドワーフなんて、やはり無に帰すべき存在です……!!」
ヘルミナは地面の上で身体を回転させて、近くに落ちていた弓を拾い上げた。そしてそのまま、ザザに弓を引いていくが――シオンに横から、蹴飛ばされて再び倒れた。
「きゃんっ!?」
「ヘルミナ、この場の争いは……私の名において禁じるわ」
「ででで、でも!! リディアさんがそう言ってもあたしは――」
倒れた先でリディアを見上げると、今までに感じたことのない、怒りのオーラが見えた。表情は多少怒っている程度だが、それと雰囲気がまるで合っていない。
「――うぅ。わ、わかりましたぁ……。その代わり、夕食はステーキをお願いしますぅ……」
「生憎と、獣肉の用意は無いわ。食べたいなら自分で狩ってきなさい」
「うぇーん……」
牙を折られたようなヘルミナを見て、ザザも身体から力を抜いた。くだらないやり取りに、ついつい抜けてしまった……というのが正解かもしれない。
「……まぁ、お前も大変なんだな……」
「ええ。あなたにも迷惑を掛けたわね。それで、ザザさんはここで何を? 森の中には入ってきたんでしょう?」
「ああ。儂は世界を旅してまわっているんだが、この森が突然現れてな」
「少し前まで、この辺りは結界を張っていたからね」
「結界……? もしかして、お前が?」
「おい。リディア様を『お前』と呼ぶな。名前でお呼びしろ」
ザザに敵意を持ち始めるシオンに、リディアは軽く手で制す。
「ダメよ、シオン。敵ではない年長者には、敬意を払いなさい。しっかり、口調も丁寧にね?」
「申し訳ありません、リディア様。……ザザさん、リディア様のことはしっかり名前で呼んでください」
その様子を見て、ザザは思わず笑ってしまう。
「……がっはっはっ! 確かにそうだな。最初が最初だったから、声を荒げちまった……。すまねぇな、リディアの嬢ちゃん」
「ええ、こちらこそ。あとで、このエルフ……ヘルミナには、しっかり教育をしておきますので」
「ああ、そうしてくれ。儂だから矢は避けられたが、他の連中なら当たっていたかもしれねぇからな」
「あら。ヘルミナって、そんなに強かったの?」
「ドワーフが相手なら、百発百中ですからっ!!」
「……それも今日、終わったけどね」
ザザを睨みつけるヘルミナを見て、リディアは頭を抱えてしまった。この場所で人を増やそう……とは思ったものの、増えれば増えるだけ、こんなトラブルが増えていってしまうのだ。
「はぁ……。ドワーフの中にもエルフを嫌う者はいるから、気持ちは分かるけどな。ただ、儂は違うから……そんな目で見るんじゃねぇよ」
「確かに、私もイメージとは違いましたね。ザザさん、話せばしっかり分かる人じゃないですか」
「まぁ、いろいろな場所を旅してるとな、そうなっていくものさ」
「……でも、ヘルミナさんも旅をしていたんですよね?」
不意に、シオンがそんなことを言った。ヘルミナは少し気まずい雰囲気を出しながら、目を逸らしていく。
「それにしても――この場所はずっと、結界が張られていたんだろう? それにしては、何も無いんだな。あるのは丸太小屋と、井戸と畑くらいのもので……」
「ええ、今までは私とシオンのふたりだったんです。まだ何も無いけど、これから人を増やそうと思っているんですよ」
「え!? そうなんですか!?」
リディアの言葉に、ヘルミナは驚いた。シオンは既に聞いていたが、ヘルミナとしては初耳だったのだ。
「そうすると、ここから家を建てたりしていくわけだな……。ふーむ、面白そうじゃねぇか」
「確か、ドワーフはそういう仕事が得意でしたよね? どなたか、移住できそうな方は知りませんか?」
「えっ」
ヘルミナは想定外……といった反応を見せるが、リディアに睨まれて縮み込んでしまう。
「そうだなぁ。儂は旅を続けるから無理だが、兄弟たちなら面白がってくれそうだな」
「本当ですか?」
「ああ。ただ、本業は鍛冶師だからな。良質な鉱石に美味い酒。これが最低条件だぞ?」
ザザの言葉に、リディアは思考を巡らせた。動き始めたばかりのこの場所で、そんなものは用意できるのだろうか……と。
「鉱石は――本格的には採れませんが、そこは何とかしましょう。お酒は、私の得意分野なので大丈夫です」
「得意分野? リディアの嬢ちゃんは、酒を造るのか?」
「錬金術で作るんですけど、結構な味なんですよ?」
そう言うと、リディアは丸太小屋に入り、酒瓶とコップを持ってきた。酒をコップに注いで、ザザに渡す。
「――何だこりゃ、美味ぇッ!!」
「そうでしょう? お肉と一緒に食べると、それはもう……!」
「肉か……。そういや、森でイノシシを1匹見つけたな」
「あら、動物も森に棲み始めたんですね」
「この一帯の近くには、山や川もあるからな。……よし、儂が捕まえてこよう!」
そう言いながら、ザザの視線がリディアに向けられる。
「あはは。わかりました、今日の夕飯はご一緒しましょう。ヘルミナ、良かったわね。ステーキが食べられるかもよ?」
「それは素直に頂きますが、ドワーフと一緒に暮らすのは――」
「あなたは少し、教育の必要があるわね。シオン、ザザさんと一緒に狩りに行ってくれる?」
「わかりました、リディア様。ザザさん、よろしくお願いします」
「おう! 解体の仕方まで教えてやらぁ!!」
そう言うと、ふたりは軽く準備をしてから森の方に向かった。残されたのはリディアとヘルミナだが、ヘルミナはどうにも気まずくなってしまう。
「さ、さて……。リディアさん、あたしは森の巡回に行って――」
「何を言ってるの? これから、骨の髄まで教育してあげるのよ?」
「ひ、ひぃん……」
にこやかに笑うリディアに腕を掴まれて、ヘルミナは丸太小屋の中に連れていかれた。その後――ヘルミナがドワーフに寛容になったことは、言うまでもない。
コメント
1件
あ~、この話、すごく良かったです!リディア様の「まずは話を聞く」という冷静さと、シオンの忠誠心のバランスが絶妙ですね。ヘルミナの家訓「ドワーフを見たら10秒以内に攻撃」、思わず笑っちゃいました。でもザザが意外と話の分かる良いドワーフで、リディアの酒で一気に打ち解ける流れが自然だなと。エルフとドワーフの因縁、これからどう変わっていくのか楽しみです!
ありんす
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成瀬りん
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