「迷惑な奴だな…」
タクはブラインドを少し上げて窓を開けると、外の様子を窺う。
「あのままの格好で帰るの?」
「ぶっ…才花ちゃんなら出来るでしょ?」
「あの上下ではヤダ」
そう応えた私の髪を撫でながら
「アイツがここまで通えるのは想定外。どうやって金、作ってんだ?才花、知ってるか?」
と聞いてくる。
「洋輔さんの実家じゃないかな?洋輔さんは普通のサラリーマンだけど、木村のおうちはすごく大きいってしーちゃんが言ってたし、香さんが、木村のお年玉は10万円って言ってたのも聞いたことあるから。学生さんだからか、お小遣いもよくもらっているみたいだよ?」
言い終わらないうちに、外からざわめきが聞こえくる。
「近所迷惑だから静かにして下さい」
緒方先生がとびきり大きな声を出すと、ざわめきがゆっくりと引いていく。
「あのね、ボクはパーソナルトレーナーなわけで、一度に何人も指導しない。全てこの女のデマ。みんな知ってるんだろ?ボクと彼らは仲間だよ。この女がただの仲間の集まりの時間に勝手に入って来て、書き込みをした。よって、この女は即刻退会。以上、解散」
おお……言い切ったね……
「才花ちゃん、見て。人間の行動って面白いね」
タクが手招きするので、私と羅依が一緒に窓の外を覗くと、ショッキングピンクのピッタリウェアだけで寒そうに見える香さんを避けるように…でも、じろじろと見ながら人の波が移動して行く。
「申し合わせたように一定距離をあけてる…」
そう呟いた私の耳に
「勘違いな格好?」
「いやいや、場違いだと言ってあげようよ」
「緒方っちのトレーニングであの体型?」
「何か違うくない?」
「通っているだけじゃ、無理っしょ?」
と下から声が届く。
「ただいま」
「お疲れ、緒方」
「アイツ、Scenic Gemも出禁なの?」
「いや、してない」
「どうして?」
タクの返事に緒方先生は羅依に視線を向けた。
「Scenic Gemで何かしたわけではないからな。俺以外に責任者を置いている以上、俺やタクの勝手な判断で出禁の通達なんて出さない」
「そういうことだよ、緒方。出せるけど出さない。現場で働く従業員を尊重する。羅依の私物のような印象を与える言動は徹底的に避けてる。Scenic Gem以外でもね」
「…カッコいい…」
「そりゃ、良かった」
チュッ…カッコいい社長の羅依の唇が額に落ちてきた。
「カッコいいよね。男のボクから見てもカッコいいよ、羅依は」
「……」
「羅依、そりゃ、良かったって言わなきゃ」
「……」
「アハハッ、サイサイ、いいんだ。羅依は羅依でボクのことを認めてくれている。タクのことも一樹のこともね。そして従業員にもそれだろ?そこが羅依がKingたる所以だとボクは思う」
「そうだよな。発端はヤンチャな俺たちの不動のトップだったことだけど、今は統治に優れたKingってところだな」
緒方先生とタクがいいこと言ってくれてるのに、羅依は無表情の無反応。
「すごく努力しての結果だと思うけど、それも適材適所?適性だと思う。羅依と一緒にお仕事をするタクがいてこそでしょ?結果が出てるってことはタクも適任なのよね?で、緒方先生は一人でストイックにひとつのことを極めるタイプで、そこで成功してるんだから…だよね?」
「俺の才花は頭がいい。俺好みだ」
チュッ…
「私、学校で勉強が出来たためしがないの。ダンスをしてなくても大学へは行かなかったと思う」
「それは学力の話。俺が言う頭がいいってのは、生きてく世界で通用する頭のいい人間という意味。才花の、すぐに具体例を挙げられるところ、感情コントロールに長けているところ、他にもいろいろあるが、そういう頭の良さのこと」
「誉められました…調子に乗っちゃうよ?」
「何にでも乗ってくれ」
「羅依が言うとエロい」
「はっ…?タク…大丈夫?お腹へった?」