テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
二人は今まで見たことがないほどの急ぎようで、鷹夜様へと駆け寄った。
ざりっと地面を鳴らして、乱れた呼吸を整える暇もなく石蕗様が鷹夜様の前で足を止めた。
「はぁはぁ。土蜘蛛が|大聖《だいせい》病院に出現と入電ありっ。現在現場に宇津木葵と斥候部隊が出動、及び小隊・中隊による避難誘導開始。大隊による|討伐《とうばつ》編成、出撃準備命令を発動しました!」
「──病院に土蜘蛛が?」
鷹夜様が鉛を飲み込んだように険しい顔をしたが、それも一瞬だけ。
すぐにいつもの凛々しい顔をして、二人に指示を飛ばした。
「分かりました。私は大聖病院に行きます。石蕗さんは予定通り、ここで部隊編成指示。情報収集をお願いします」
その言葉に石蕗様が深く頷いた後「ご武運を」と、短く言葉を交わすとまた矢のようにこの場を離れた。
残っていた葵様がビシッと姿勢を正す。
「碧は既に大聖病院に向かっております」
鷹夜様は一瞬だけ私を見た後葵様に向き直った。
「了解。では葵隊員は環を──皇宮に連れて行ってください。到着後は皇宮で待機。現場に向かった碧隊員とテレパスにて常に状況把握、情報交換、周囲に情報周知を徹底。以上です」
その言葉に葵様が「はいっ」と返事をして私を緊張の面持ちで見つめた。
これは本当に皇宮に連れて行かれてしまう。また一歩身を引いた瞬間。
鷹夜様が「許してくれ」と指先をパチッと弾いたかと思うと、びりっとした鈍痛が全身に走った。
「っ!?」
指先に巻かれたハンカチがするりと、地面に落ちる。
痛みより驚きで声も出せない。
強制的に意識が切断されるように視界が霞んでゆく。
まだ暗い夜は来てないのに、暗闇に意識が包まれ始める。体に力が入らなくなった瞬間に、どさりと鷹夜様に抱き留められた。
「杜若様っ、いま環様に何をっ」
葵様の驚いた声がした。
「環は土蜘蛛が現れて非常に混乱しています。今は宥める時間が惜しい。心苦しいのですが、体を麻痺させる雷の術を使いました」
「雷の術で? そんな器用なことを……!」
「緊急事態です。環をよろしくお願いします。皇宮へと移動中、環が何かを言っても、耳を貸さなくていい。では、皇宮に連れて行って下さい」
「はいっ」
淡々と進む会話。
鷹夜様の冷静な声と同時に鷹夜様に抱き抱えられた体が、すっと葵様へと移動する感覚まではわかった。
『待って、鷹夜様っ! お願い、やめて。私を連れて行かないで!』
と叫んだつもりなのに、わずかに口を開いて吐息が漏れただけ。かわりに瞳から涙が落ちた。
視界は真っ黒で、意識も夜より深いところに落ちていく途中。最後に鷹夜様の言葉を聞いた。
「環、すまない。でも俺は土蜘蛛に環をやることなんて絶対に出来ない」
その言葉にまた涙が頬を流れ落ち、意識も一緒に落ちて行くのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!