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午後になって、俺は社内の廊下を歩いていた。向かう先は給湯室。とはいえ広くてもはやキッチンだし、小さなテーブルやソファもあってちょっとカフェっぽい。
休憩がてらカフェオレを飲もうと思って、マグカップを取り出したところで、ドアが開いた。
「あ、社長。今日なんか沢山会いますね」
入ってきたのはクロコダイルだった。
「そうだな」
「社長もコーヒー飲みますか?」
コーヒーの粉が入った瓶を手に持ちながらクロコダイルに尋ねると、彼はこくりと首を縦に1度だけ振った。
俺はクロコダイルの分のコーヒーをドリップで入れていく。なんか、コーヒーを淹れてると、海軍でみんなにコーヒーを振舞っていたことをつい思い出してしまう。別に今、クロコダイルの元にいるのが嫌というわけではない。でもやっぱり懐かしく思ってしまう。
なーんて、感傷に浸ってる場合があったらさっさとコーヒーをクロコダイルのとこに持ってけって話なんですわ。湯気が立つコーヒーの入ったカップをクロコダイルの前に出す。
「どーぞ」
それから俺は彼の隣に腰掛けて、ミルクやらを入れた甘いカフェオレを一口飲む。うん、美味い。
「……エメリヒ」
「はい?」
突然クロコダイルから声をかけられて、俺は思わず間の抜けた返事をする。
「おれの前ではそれ、外すんだな」
「あぁ、面ですか? えぇまあ、さずがに淹れたばかりの温かいコーヒーをストローで飲むわけにもいかないですし、今はあなたしかいませんしね」
「……そうか」
「はい」
俺がそう答えると、クロコダイルの表情が何だか柔らかくなった気がする。
それからしばらく俺主体に話していたのだが、ふと視線を感じて言葉がぴたりと止む。
「どうかしましたか?」
クッキーの食べかすでもついてたかな。とか口元を触ってみるが特になし。もう一回どうしたのか聞こうとした時、クロコダイルの右腕が俺の方に伸びてくる。そして俺の顔に手を添える。俺は一瞬何をされるのか分からなくて固まってしまったけど、どうせまた撫でられるだけだと思ったので大人しくされるがままになっていた。
でも予想に反して、その手は頬まで降りてきて親指の腹ですり、と優しく肌をなぞるように触れられた。
「し、社長?」
俺はびっくりして目を丸くしながら、クロコダイルを見つめ返す。クロコダイルは何も言わずにただ俺を見つめていた。俺もそれに倣って彼を見つめ返していたのだが、何とも言えない空気に耐えられなくなって、俺は視線を外す。
でも、今度は俺の顎に手を添えて、強制的にクロコダイルの方へと顔を向けさせられる。俺は再び彼と目が合う。
俺達は暫く無言のままお互いの目だけを見ていて、先に沈黙を破ったのはクロコダイルだった。
――ちゅ。唇に触れるだけのキスをして、俺から離れる。
……え?
「え?」
俺は混乱のあまり、素直に思ったことが口から出てしまう。
「クハハっ、間抜け面だな」
間抜け面にもなるが……? 俺は呆然とする。だって、俺達付き合ってないよね……!?
俺が言葉を失ってる間に、クロコダイルは立ち上がって、給湯室から出て行ってしまった。
…………俺ちょっといろんな人にキスされすぎじゃなぁい!!??