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千紘は間違っても凪には触れないように、そおっと両手を上げたままスマートフォンを操作し始めた。


このまま考えていても答えはでないし、とりあえず宿でも探してみようと思ったのだ。温泉の有名所はいくつもあるが、どこがいいだろうかと考える。

千紘も長期間休むわけにはいかないし、取れても3日だろう。3日で行って帰って来れる場所じゃないと……というところも視野に入れて宿を検索した。


客室露天風呂付きの部屋を探すと、再来月ならけっこう空いているところがあった。少し値段を高めに設定すれば、綺麗で景色もいいところがいくつもある。

こんなところに凪と行けたら……と思うと、逸る気持ちを隠しきれなかった。


夢中になって宿を探せば、千紘の視線は自然とスマートフォンに釘付けになった。そんなふうに千紘の興味が凪から温泉に逸れてしまったため、凪は何かがおかしいとチラリと様子を伺った。


今までの千紘なら、歓喜の声を上げたり直ぐに髪を撫でたりしたのに、抱きついたままの凪をそのままに別のことに興味を示している。下から千紘の顔を見あげれば、真剣に何かを見ているようで凪は急に恥ずかしくなった。


やっと自分から抱きついてみたというのに、千紘は喜ぶ様子もないし触れてもこない。いいと言うまで触るなと言ったのは自分なのだが、俺から抱きついた時くらい受け入れろよ。と少し不満もあった。


むうっと唇を尖らせた凪は、スマートフォンを持っている千紘の左手に手を伸ばし、手首を掴んだ。

急にぬっと現れた凪の手に驚きながら、スマートフォンを持ち変える。


「どうし……」


千紘が言いかけたところで、凪は自ら千紘の手を自分の頭の上に乗せた。それから再びギュッと抱きつく。

千紘は言葉を失ったまま、促されたようにそのまま頭を撫でた。


千紘は反射的に撫でてしまったが、すぐにはっと我に返る。なぜか凪に誘導された手が体温を感じて温かかった。


これは……撫でろってことか?


千紘は半信半疑でそのまま撫で続けた。柔らかな凪の髪は生え際が黒くなっていて、長さもだいぶ伸びてきていた。

凪が美容院のキャンセルをした日から一度だけ千紘がカットをしたが、一緒に住むようになったら次の予約もそのままになってしまった。


「千紘の都合がいい時なら多分いつでも大丈夫」と凪が言ったから、何度か予定を見ていた。そろそろちゃんと染めてカットしてあげた方がいいな。と髪を触っているとどうしても仕事のことを考えてしまう。


少し真剣にヘアスタイルを想像したところで、そうじゃない。と千紘は慌てる。あの凪が自ら髪に触れることを許したのだ。

今までなら、カットの時以外に触られるのを嫌がったのに。


膝枕も頭を撫でてもらうのも、今までは千紘の方が凪にしてもらっていた。凪もそれを仕方がないと呆れながら受け入れてくれていた。

けれど、もしかしたら凪は甘えられるよりも、自分がこうして甘える方が好きなんじゃないかと考えた。


そしたら目いっぱい甘えてくれる凪を想像して、胸がキュンキュン締め付けられた。凪に甘えられるならこの上ない幸せだ。

頭を撫でさせたということは、ある程度のところまでは許してくれているということ。


千紘はどこまでなら触れていいのか凪の様子を伺った。お互い相手の様子を探りながら、この後どうするべきかと静かな時間が流れた。


「凪、触ってていいの?」


「……んー」


千紘が尋ねればいいとは言わないが、嫌とも言わない。凪がハッキリと拒絶しない時は、OKのサインでもある。


照れたように更に顔を埋める凪を見て、千紘は恥を忍んで自ら歩み寄ろうとしているのだと察した。


凪の方は、千紘に頭を撫でられながら内心ドキドキしていた。緊張しているし、恥ずかしさもある。

まさか、自分が男の千紘にこんなふうに擦り寄る日がくるなんて思ってもみなかったのだ。けれど、理屈などどうでもよかった。そうしてみたかったからそうしただけだ。


千紘に甘えられるのは嫌ではなかった。抱きつかれるのも慣れた。でも自分から初めて千紘にキスした時と同じで、行為は一緒でも千紘からされるのと、自分からするのでは感じ方が全く違った。

今まで女性に甘えたことはなかった。甘えたいとも思ったことはなかった。しかし、徐々に千紘に甘やかされて甘えることに少し慣れてきた。そしたらもう少し、と欲が出てきたのだ。


「触っててもいいの?」


千紘にそう聞かれたら、心臓がドクンと跳ねた。優しい声が聞こえた。視線も興味も自分に向いたことが感じられた。

最近の千紘はすぐに興味を他に向けるから。自分が触るなと言ったからだとわかっていても、自分が千紘にとっての1番でなくなったら物足りなくなった。


ないものねだりだ。凪は自分でもそう思うが、今欲しいものはどうしても欲しいのだ。千紘の指が頭皮に触れると、頬を触る感触も横腹を撫でる体温も、鼠径部を滑る振動も全て記憶として蘇る。


暫くしていないその行為が凪の体を支配した。急に千紘に触れて欲しくなって、どうしたら千紘は昔のように求めてくれるだろうかと考えた。

直接「抱いて」なんて意地でも言えないし、「そろそろ解禁してもいいよ」と言うのも「まだ我慢できるよ」と笑われてしまいそうだし、「ヤリたい気分だから抱かせてやる」と言うのも体目的のようだと感じた。


自分から誘うのってなんでこんなに難しいんだ……と考える凪の顔は少しずつ紅潮する。プライドが邪魔をして次の行動に移せない凪に、できる男千紘はセンサーを働かせた。

ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

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