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何度も何度もキスを交わした。舌が絡み合って、鼻先をくっ付けて、頬を擦り寄せた。いつの間にか、お互いに見つめ合い、ふっと笑みがこぼれた。


「凪、好き」


「うん」


凪は決して俺もとは言わないが、千紘の体を受け入れた。触れる指も滑る舌も硬く膨張した熱も全て。

汗だくになることも厭わず、絡み合った。凪の方が早く何度も達したが、凪はやめろとは言わなかった。


千紘が果てるまで待ち、果ててからも満足するまで受け入れた。


「んぅっ、はっ、奥……」


「奥好き?」


「ん……好き、かも」


頭がぼんやりしているのか、何度目か数え切れなくなった頃にはそんなふうにポロッと素直に言葉を発した。


それが嬉しくて、千紘は緩みっぱなしの頬を凪の背中に当てた。優しく、時に激しく突き上げて、凪の甘い声を何度も感じた。

どちらのものかわからない体液が大量に飛び散って、それが更に体をヌメらせていく。


「凪、好き」


「んっ、んー」


「凪は?」


千紘が後ろから攻めながらそう尋ねる。先程よりも少し踏み込んだ。今なら、こんなにも受け入れてくれる凪が嫌いだと言うわけがないという妙な自信があった。


「はっ……ん、ちょっと、好き……かも」


だからといってそんな言葉が聞けるだなんて予想はしていなかった。いいところ「俺も」が聞けたらラッキーだと思っていたのに。ちょっとだけ好きでも好きは好きだ。

千紘はぶわっと体中が熱くなって、脳内物質がもの凄い速さで分泌されていくのを感じた。


何もかもどうでもよく思えてしまうほど、目の前の幸福に夢中だった。


「凪、凪っ……好き。大好き」


「はっ、んぅ……知って……る」


愛を囁き合うような甘いものではなかったが、千紘にとっては蕩けてしまいそうなほど甘ったるい時間だった。


幸せな時間は、行為が終わった後も続いた。いつもなら真っ先にシャワーに向かった凪だった。体が悲鳴を上げていてもよろけながら浴室に向かったものだ。

それが、余韻を楽しむかのように千紘の腕枕に頭を預けて、千紘の右手を手に取った。仰向けで上に掲げて、千紘の指を触って眺めていた。


「すげぇ、タコできてる」


千紘の右手は左手とは違った。1日に何人ものカットをし、パフォーマンスの一環としてスピーディーでアーティスティックなカットをするものだから、関節は固まって変なふうに曲がっているし、ハサミによる負荷でタコができていた。


「俺の勲章みたいなものだね」


「練習でこうなんの?」


「そうだね。ハサミ持ってる時間が長いから。どうしても他の美容師よりも手に負担がかかるの」


「自慢じゃん」


「一応売れっ子なのよ」


そんなたわいもない話をしながらも、凪がピッタリと身を寄せ合って千紘の手を握ってくれているのが嬉しかった。

話の内容など何でもいいのだ。


シーツが濡れて冷たくても、まだ熱を帯びた体は汗ばんでいて、くっついている肌が熱いくらいでもそれすら心地よく思えた。


「それより凪、体辛くない?」


「あちこち痛い」


「まあ……そうだよね」


千紘は自分で聞いておいて苦笑する。だけど、凪が「まあ毎日してりゃその内慣れるだろ」なんてさらりと言ったものだから、千紘は度肝を抜かれた。


「え!?」


咄嗟に体を起こした千紘の目をじっと見つめた凪は、すぐにふいっと視線を逸らす。


「別にしたくないならいいけど」


また猫のようにそっぽ向いてしまう凪のご機嫌取りも大変だ。しかし、それさえも可愛いと思えてしまうのだから重症だと千紘は自分で思った。


「したくないわけないじゃん! こんなに凪のこと好きなのに。毎日イチャイチャしようね」


ギューッと抱きしめて頬をくっつけると、凪はまた一言「んー……」とだけ返事をした。


「幸せだなぁ……凪とこんなふうに過ごせて」


千紘は思わず心の声がこぼれてしまった。自分の中だけで噛み締めておくにはもったいないと感じた。


「大袈裟だな」


「大袈裟じゃないよ。俺、凪と一緒にいる時間全部幸せ。こうやってくっついてるだけでも幸せ」


「ふーん……」


「このさ、腕枕した時のフィット感がたまらないんだよ。俺専用なんじゃないかって思うくらいしっくりくるの。まあ、凪にはわかんないだろうけど」


自分にとってそれがよくても、相手にとってもそうとは限らない。表から見てピッタリとハマっているように見える凹凸も裏から見たら、微妙にズレていたりするように。

千紘はそのズレを何度となく体験してきた。そしてそのズレは、凪を不快にさせるほど大きなものだったこともあった。


今回だってそれと同じ。千紘にとっては唯一無二で特別感があっても、凪にとってはその腕枕は居心地がいいとは言えないかもしれなかった。


「何でそんなふうに決めつけんだよ。同じフィット感があったら俺じゃなくてもいいってこと?」


なぜかムッとしたように千紘を睨みつける凪。それはまるで嫉妬のようで、千紘はそっと息をのんだ。


「……俺は凪だけだよ。こんなにピッタリくるのは凪しかいないもん。俺じゃなくてもいいのは凪の方でしょ」


今まで十分我慢した。傷付け合ったのはお互い様だし、傷付き合ったのもお互い様。だから、少しくらいの意地悪は許される気がした。


「っ……別に、千紘でいい……」


いつまでも凪は素直じゃない。そんなところも可愛いのだけれど、言葉にしてくれたらもっと嬉しいのに。と千紘はその先も欲する。


「そう。じゃあ、凪が飽きるまでは側にいてくれるんだ?」


「……飽きるとか……そういうんじゃないし」


「ん? 別の誰かが見つかるでは俺でもいいってことでしょ?」


今までの仕返しといわんばかりに千紘は飄々と言ってのける。対等な存在として関わっていくのであれば、ちょっとは言いたいことも言わせてほしかった。


「は!? そういう意味じゃっ」


「じゃあ、どういう意味?」


凪は千紘に顔を覗き込まれて、かあっと真っ赤に顔を染めた。それからまたぐるっと千紘に背中を向けた。

あーあ、拗ねちゃった。と千紘が肩をすくめたところで「……千紘がいい」とポツリと呟いた。

ほら、もう諦めて俺のモノになりなよ

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