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マイロが紫の薬を飲み干した瞬間、世界が静止した。
内側から溢れ出す純白の魔力が、マイロの細い身体を激しく震わせる。
十八年分の記憶。ひだまりの匂いも、檻の冷たさも、自分を救い出したルイの絶望的な瞳も、
すべてが濁流となって流れ込んできた。
凄まじい衝撃波と共に玄関の扉が枠ごと粉砕され、騎士団がなだれ込んでくる。
だが、その中心でマイロがゆっくりと顔を上げた。
光の中心で、マイロは拒絶を恐れて身を竦ませるルイの頬を、白く細い指先で慈しむように掬い上げた。
「……お疲れ様、ルイ姉。……一人で、よく頑張りましたね」
不敵な笑み。マイロが虚空を一閃した瞬間、首の銀のチョーカーが跡形もなく爆散した。
彼女の周囲に、幾重にも重なる巨大な黄金の魔法陣が展開される。
「……ローランさん。……あいにくですが、私は誰の『商品』でもありません」
マイロは一歩前へ踏み出し、なだれ込んできた騎士団を見据えた。
その瞳に宿るのは、怒りではなく、すべてを包み込むような圧倒的な「光」。
「――光輝よ、彼の者の傷を癒やし、魂に安らぎを」
朗々と響く、聖なる詠唱。
殺気立っていた空気が一変し、部屋全体が温かな黄金の粒子に満たされていく。
「『ルミナス・ヒール』!!」
爆発的な光が炸裂した。
それは敵を傷つけるための光ではない。
あまりに強すぎる「癒やし」の奔流が、ローランたちの戦意を削ぎ、強制的に深い安眠と安らぎの中へと誘っていく。
「なっ……身体の、力が……。……ああ、なんて温かい……」
剣を落とし、その場に膝をつく騎士たち。
破壊ではなく、敵を無力化して救う。これこそが、マイロが取り戻した「最強」の証。
光の中で、マイロは立ち尽くすルイを振り返り、優しく手を差し伸べた。
「……ルイ姉。私に掴まって。……世界の果てまで、連れて行ってあげますから」
ルイは、自分を救い出したはずの少女の背中に、かつてないほどの頼もしさと愛を感じて
その手を強く、二度と離さないように握りしめた。
二人の周囲で光が渦を巻き、次の瞬間、二人の姿は隠れ家から掻き消えていた。
残されたのは、深い眠りについた騎士たちと、窓から差し込む静かな朝日だけだった。