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天神みねむ!クリスタルがない人
転移の余波で、ルイは地面に膝をついた。
騎士として修羅場を潜ってきた彼女でさえ、マイロの放った魔法の余波には平衡感覚を狂わされる。
「……っ、はぁ、はぁ……。マイロ、無事か……?」
声を絞り出し、背後にいるはずの少女を振り返る。
そこには、月明かりを背に受け、呆然と自分の手を見つめるマイロが立っていた。
彼女の首元には、もうあの銀のチョーカーはない。
「……ルイ姉、そうだったんですね」
その呼び声に、ルイの心臓が痛いほど跳ねた。
記憶が戻ったのだ。自分を「商品」として扱った世界も、自分を「独占」しようとしたルイの醜い執念も、すべて。
「……ごめん。……本当に、私は、君を……」
謝罪の言葉は、マイロの白く細い指先によって遮られた。
マイロはルイの前に膝をつく。
「……謝らないでください。あんな檻、私の魔力があればいつでも壊せたのに。私がそれをしなかったのは……」
マイロはふっと、毒を含んだ花のように微笑んだ。
「ルイ姉に、私が消えたとき……私のことを思って泣き喚いてほしかったからですよ」
「……え……?」
ルイは絶句した。
絶望の淵で自分を救ってくれた「慈悲の光」だと思っていた魔法が、
その裏側には、自分を一生後悔と愛で縛り付けるための、残酷な計算があった。
「……酷い顔ですね。…でも、そんな顔で私の名を呼ぶルイ姉が、たまらなく愛おしかったんです」
マイロの瞳に宿るのは、聖女の慈愛ではない。
自分を救うために闇に手を突っ込んだ騎士を、
さらに深い「自分という名の地獄」へ引きずり込もうとする、共犯者の悦びだった。
「私は、戻れません。ルイ姉も、もう戻れない。これからは二人きり。」
ルイは、全身の血が逆流するような戦慄と、それ以上の狂おしいほどの歓喜に震えた。
守っていたつもりだった。支配していたつもりだった。
けれど、最初から手の平の上で踊らされていたのは、自分の方だったのだ。
「……君というやつは……、…善処するとしよう」
ルイは、自分よりも遥かに恐ろしく、愛おしい「魔女」を、どこか他人事のように眺めた。
「……行こう。地獄でも、奈落でも。君が望むなら、どこへでも連れて行かれてあげよう」