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ヒノトが目を覚ますと、そこは洞窟内だった。
「あ! ヒノトさん、目を覚ましましたよ!」
「あれ…………ニア…………?」
洞窟の入り口から、コツコツとキルが歩み寄る。
「やっと正気に戻ったか。お前が理性を失ってから、ニアと、そして……」
そう言いながら、洞窟の奥に目を向ける。
ヒノトも同じく目を向けると、緑髪の長髪を靡かせたエルフ族が、静かに武具の手入れをしていた。
「エルフ!!」
「そうだ。僕たちは彼女に救われた」
「シーナ・アシエティよ。結果的には救うような流れになったけど、救われたのは私も同じ。最初にあの魔族を見つけちゃって、でも一人じゃ敵わないから、協力できる誰かと出会さないか、アイツの跡を付けてたの」
ヒノトは目を細めてシーナを眺める。
「一人じゃ敵わないのに、キルたちを救った……? 悪いんだけど、ほとんど意識なかったから、何が起きたのか聞かせてもらえるか……?」
「説明するにはまず、公式戦で僕たちのパーティと戦った時の暴走と、魔族が乱入してきた時、レオ様と交戦になって初めて灰人の力を使った記憶があるかどうかで、こちらの説明の流れが変わる」
「ああ……また暴走してたのか……。その話は、リリムたちから聞いてるぜ……。倭国で粗方力が扱えるようになって、もう起きないかと思ってた……」
「まあ、知っているなら話は早い。君は、あの時と同様に深傷を負って意識を失った。そして、恐らくは以前見せた灰人の暴走が起きたのだろう。君の髪色は灰色と化し、血を流しながらも魔族の雷魔法を扱っていたんだ」
その話を聞き、ただ突撃して無惨にやられて足手纏いになっただけではなかった安堵と、自分の力を未だコントロールできていない現状に、歯を食いしばった。
「それから、ニアも合流し、雷の魔族を “超伝導” で倒せる寸前まで追いやったところで、氷の魔族の増援が来てしまったんだ」
「魔族の増援が来てたのか……!?」
「ああ。でも、君の雷魔法と、彼女の草魔法により、強力な “激化” を起こして、奇跡的に魔族二体を倒し、君を担いで一時この洞窟内へと避難してきたんだ」
自分の意識のないところで、壮絶な戦いが繰り広げられていたという事実に、また胸が痛くなるヒノト。
「君がいなければ勝てなかった。最初は試すような物言いをしてしまってすまない、ヒノトくん」
「あ、あぁ…………」
事実として、無意識化だとしても、キルたちを助けられたことに変わりはないが、こうしてキルから素直に謝罪を受けても、ヒノトはそのまま地面を俯いた。
「まったく、ヒヤヒヤさせる戦い方をするんだから。それで、いつまでもしょぼくれてないで! 私たちは、そんな中でも魔族二体を倒せた! 今考えるべきは、この五人が集まった今、最後の一体をどう倒すか、でしょ!」
そんな中、睨み付けるようにルルは言葉を足した。
「そうだな。水・氷・草が揃っているなら、 “凍結” と “開花” を駆使しての戦闘ができるだろう。ヒノトくんが未だ雷を扱えるなら、そこに “感電” や “激化” 、 “超伝導” も巧みに混ぜることが出来る。しかし、懸念点を挙げるとすれば、我々には**『決定打』**がないことだ」
「決定打……? これだけの属性反応が起こせるなら、だいぶ有利に戦闘が出来るんじゃないの?」
「いや、僕がサブアタッカー、ルルさんはメイジ、サブアタッカーとバッファーの中間と言ったところだろう、そして、ニアはヒーラーだ。シーナさんは……」
「私も、役割的に言えばサブアタッカーよ。魔族に矢を当てた時を見た人なら分かると思うけど、私の攻撃力はほぼ無いと言っていい。その代わり、私の戦い方は、味方と連携した時に真価を発揮する。この武器も、装飾品も全て、属性熟知のみを増やしているの」
「と言うことだ。だからこその先程の激化の威力。逆に言えば、僕とルルさんで開花のサポートをすれば、属性熟知を活かしたシーナさんの攻撃を軸にできるかも知れないけど、それだと会心が発生しないんだ」
「なるほどね……。ヒノトくん以外、全員がサブアタッカーに加え、私たちはまだ、草魔法を授業で習ったこと以外で、ちゃんと理解できてないもんね……」
そんな中で、ヒノトは静かに立ち上がる。
その目には、薄らと緊張感が漂っていた。
その光景を、ニタリとキルは見つめた。
「俺が…… “草属性” を扱えたら……魔族を倒せる確実性って、上がるんじゃないかな……?」
「はぁ!? さっきも言ったけど、キルロンドの私たちは今まで全く草属性に触れてこなかったのよ!? ただでさえ、灰人の力で、魔法自体、最近扱うようになったんでしょ!? 尚更リスクが上がってるわよ!!」
ルルの言葉を受け流しながら、ヒノトはニヤッと汗混じりに笑うと、髪色は灰色に変色する。
そして、剣に草魔力を込めると、剣は緑色に輝く。
「なんで……草魔力が……!?」
「さっきの話……魔族を倒した時、俺にもシーナの草魔法が当たってたんだろうな……。身体の中で初めての魔力の感覚だった……」
「ヒノトくんが草魔法を扱えても、打開策には……」
「俺に考えがある…………!」
そう言うと、ルルに向かってヒノトは笑みを浮かべた。
キルは魔族を発見すると、真正面から相対する。
「ふっ、一人とは運がないな。隠れておけばよかったものを……」
「お前、炎使いだな。僕は水属性、相性が悪いな」
「弱点属性如きで、魔族に勝てると思うな!!」
『まず、キルが真正面から魔族と対峙する。使徒たちと違って、バリアの発動には魔力を要する。だから、一人でいた方が魔族も油断してくると思うんだ』
“水魔法・水弾”
“氷魔法・氷弾”
魔族が動いたタイミングに合わせ、キルと、背後に隠れていたニアは、同時に初級攻撃魔法を放つ。
『最初にして欲しいのは “凍結” 。凍結の条件は水と氷が当たればいいだけだから、命中率が高くて、より魔力を使わない初級魔法でいい』
(さあ、凍結はしたぞ、ヒノトくん……。お手並み拝見させてもらおう……!)
木の上から、シュバっとシーナの矢が放たれる。
「さあ、 草付着が出来たわ!!」
“水攻撃魔法・アクアジェット”
そこに、ルルの水攻撃魔法が加えられる。
周囲には “草原核” が撒き散らされる。
“草原核” とは、草付着された相手に対し、水魔力が加わると発生する、魔力の込められた種子である。
「小癪な!!」
その瞬間、魔族の凍結は解除される。
「キル!! 行くぞ!!」
木の上からヒノトは魔族に向かって飛び降りる。
(これ以上、足手纏いにはならない……! ルークの攻撃は注視して見てきた……。あとは、応用だ……!)
“陽飛剣・灰草豪弾”
ゴォッ!!
剣に付着させた草魔力を、魔族に向けて思い切り暴発させ、凄まじい爆発音が響く。
“水放銃魔法・水針”
その中に向け、キルは五本に増やした水針を放出。
種子に命中した水針は破裂し、 “開花” を起こす。
ボォン! ボォン! ボォン!
「ぐあああ!!」
次から次に草原核は破裂し、魔族は声を上げる。
「ダメだ……! これじゃ倒せない……!!」
「どうするのよ……!!」
“雷魔法・雷葉”
バチバチ!!
次の瞬間、魔族の周囲に強烈な雷が巻き起こり、草原核は追尾弾のように更に魔族へと放たれ、その威力に魔族はその場にバタリと倒れた。
ヒノトも、草原核の破裂によるダメージを受け、傷だらけになりながら膝立ちしていた。
「ヒノトくん……! 今のは…………」
「 “超開花” だ……。草×水の敵に対して、更に雷をぶつけると起こる反応らしい……。前に、レオとルークに聞いたことがあったんだ……」
「そんな聞いただけのことを……こんな土壇場で……」
「でも、勝てた……! だろ……!!」
息を切らしながらも、ヒノトはキルに向け、ニシっと笑みを浮かべさせた。