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【irxs】医者パロ

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【irxs】医者パロ

23 - 第22話 「守る 何でも 小さな」①

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2025年03月14日

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【お願い】


こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

この言葉に見覚えのない方はブラウザバックをお願い致します

ご本人様方とは一切関係ありません


小児科医青×天才外科医桃

のお話です


ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(タイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります



今回は完全にモブ女子視点になります

青桃さんが働く病院で事務をしている女の子の話です




「守る 何でも 小さな」



今日、既に何度目のため息が漏れたか分からない。

……いや、正確に言うと「内心で漏らしたため息の回数」だ。

現実でわざとらしく息をつくなんて許されるはずがない。

不快な感情も表情も、全ては胸の内に押し込めなくてはならない。



「僕もさぁ、暇じゃないんだよ分かると思うけど!」



白衣を着た目の前の男は、文句を並べ立てながら尊大な態度で椅子に座っている。

革製のそれは、でぷりと太った男の体重で悲鳴を上げるかのように軋んだ。


それはそれは高級そうな椅子だ。

くるりとその椅子を90度回転させ、すぐ斜め後ろに立った私の方を振り返る。



「…大変申し訳ございません」



頭を下げながら、それでもその男の目の前に一枚の紙を差し出した。



「こちらにご捺印をお願いいたします。お時間をいただき恐れ入ります」

「次からは間違えないように気を付けてほしいね。忙しいんだからこっちは!」



何回同じことを言うんだよ、そう言いたい気持ちをぐっとこらえてもう一度頭を下げた。


そんな私の様子に「ふん」と一度鼻を鳴らしたその整形外科の科長(…つまりこんな男でも科では一番偉い)は、差し出した紙に印鑑をぐぐっと押しつける。


「ありがとうございました」ともう一度頭を下げたけれど、それは礼というよりも、もはやこの男の顔を見たくなかったからかもしれない。

恭しく一礼を施して、音も立てずに静かにその部屋を後にした。



整形外科科長の、広くて豪華な個室。

…あんたみたいな人間には分不相応な部屋だよ、なんて思いながら、廊下の隅まで行って「べ」と舌を出した。






あの科長が言う通り、医者が多忙すぎることくらいこっちだって分かっている。


医者は診察だけしているわけじゃない。

時間外や予約外でも電話をしてくる患者はいるし、その対応に追われることもある。

加えて事務作業なんてものもあるし、学会や会合、勉強会なんてものも数えきれないくらいあるだろう。

論文も書いているような研究熱心な医師なら、尚更休む暇はないはずだ。



…だから、私たちみたいな事務員がいる。

本来医師が作成するべき文書を、忙しい医師の代理で作成するのだ。

医師は内容を確認し、不備がなければそのまま捺印して終わり。

そうやって先生たちの業務の負担を、少しでも軽減するために私たちがいる。


分かってる、医師は忙しい。

それは…頭では分かってるけど…!




「はぁぁぁぁぁ! 疲れたぁ」



事務室の自分の座席に戻って、思わず机の上に突っ伏す。

隣にいた先輩が「どうしたの」と苦笑い気味に声をかけてきた。



「私が作成した文書、提出先から不備ありで戻ってきたんです…」


ぽつりと呟きながら話し始めると、反対隣の後輩が「おつかれさまです」と淹れたばかりのコーヒーを差し出してくれた。



「そんなに大した間違いじゃなかったんですけど、すぐに直して返送しろって言われて…急いで文書作成し直して、先生のところに確認と捺印をもらいに行ったんです」

「誰? 先生」

「整形外科の科長です」



言った瞬間、先輩と後輩だけでなく、周りの座席の人たちも「あー…」と似たタイミングで同じような声を漏らした。

それだけあの医師の評判が事務員の間では良くないということだ。



「嫌味言われたでしょ。『ぼかぁ忙しいんだよ君たちと違って!』とかなんとか」



言葉は違うけれど、あの医師の言いたいニュアンスは理解できるらしい。

先輩はそう言って肩を竦めてみせた。

それに唇を尖らせて一つ頷き、私は後輩が淹れてくれたコーヒーに口をつける。



医師からしてみれば、忙しい時に『ハンコください!』なんてやって来る事務員がいたらうっとうしいのは分かる。

だけどこちらだってそれが仕事なのだ。


今回のように提出先から書類を突き返されるのは、私たちがミスをしたときばかりとは限らない。

特に相手が役所関係なら最悪だ。

ミスではなくても、重箱の隅を突くように小さなことで問い合わせや訂正要求をしてくる場合だって多い。

こちらとしても忙しい医師の手を煩わせるのは本意ではないが、相手方と医師の板挟みで辛い気持ちもあるのだ。



「…まぁ、でもそもそも私がミスを一つでも減らせばいい話ですよね…。気をつけます」

「えらすぎ」



うなだれるように、それでも反省の色を見せた私に先輩は笑いながらそう言った。

よしよし、と頭を撫でるような仕草をした彼女と、そのまま互いに仕事に戻る。



そう、こちらも人間だ。

医師の気持ちも分かると言っても、偉そうな態度にはイラつくことだってある。


それでも自分の反省すべき点は素直に反省しよう、と思えるのは、あんな嫌な医師ばかりではないことも知っているからだ。




主に外科系を担当している私が、一度だけ別の科を担当したことがあった。

その時、こちらのミスや不手際ではないにしても、医師に直接会いに行かなければならない事態が発生した。


普段なら私たちはシステム上のデータとファイルのやり取りだけで業務を済ませるから、医師と直接顔を合わせることはない。

だけどその時は大至急の案件で、今回のように電話でアポを取ってその医師の部屋まで会いに行ったのを覚えている。



その医師は、役所からの面倒くさいような要求にも嫌な顔一つ見せず対応してくれた。

社会人としてはそれが当たり前なのかもしれないけれど、それができない医師もたくさん見てきから、とても安堵したのを覚えている。


しかも退室するときには、目を細めてにこりと微笑んで「いつもありがとう」なんて言ってくれたのだ。


私はその医師と関わるのはそれが初めてだった。

だからきっと、その「いつも」は私に対して言ったわけじゃないんだろう。

恐らく私たち事務員全員に向けてのものだ。

他職種を軽んじない誠意ある対応に、あの一瞬ですっかり心を撃ち抜かれてしまった。


…もちろん、ただの事務員と医師としての感情だけど。



「…世の中の医師がみんないふ先生みたいになればいいのに」



目の前の端末のキーボードを叩きながら、思わず本音が零れ落ちた。

それを耳に止めた先輩が、隣で「出た、長野ちゃんの『いふ先生推し』」とまた苦笑いを浮かべる。



「まぁ、うちの病院でいふ先生好きじゃない事務員なんていませんよねー」



反対隣の後輩も、そう同意して力強く頷いた。




小児科の、いふ先生。

青いさらさらの髪に、私なんかは首を傾けて見上げなきゃいけないほどの長身。

瞳は透きとおるような青色で、物腰もとても柔らかだ。


看護師も事務員も清掃員ですらも、彼のファンは多い。

…まぁ気持ちは分かる。私もあの一件以来、アイドルを推すような感じで、遠くにその姿を見つけたらうちわでも振りたい心境に駆られるくらいには好感を持っている。



「ながのー、推し医師に思いを馳せてニヤついてるところ悪いけど、電話入ってる」



今度は正面の席の同期が声をかけてきた。


「〇〇区役所から、提出した文書の内容の問い合わせね」


続いたそんな言葉に、「またか」という思いが湧く。

げんなりとした表情で、「ふわぁい」と腑抜けた返事が自分の口から零れ落ちた。







(続)

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