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【第一章:邂逅】
世界は二つに裂けていた。
天使たちは空を統べ、悪魔たちは地を這った。
数千年の時を超えて続く戦争。その最前線で、ふたりは出会った。
――風が吹く、戦場の丘。
焦げた草の匂いと、鉄の味を混ぜたような風が吹く中、天使の水は槍を手にしていた。
「……もう、何度目だろうね。こうして殺し合うのは」
背後から、くぐもった笑い声がする。
赤い瞳、血のような髪。悪魔の戦士・赤が、斬りかかった剣を止める。
「だったら剣を捨てろよ、水」
「捨てたら君は僕を殺すじゃないか」
「殺らなきゃ殺られる、それだけだろ」
剣と槍が交錯する。火花が散る。
天使と悪魔――敵同士。会話を交わすのも不自然なほどの関係だった。
それでも、ふたりの戦いは、どこか遅かった。
殺し合いというよりも、互いを「観察するような」…そんな、間合いだった。
「君、名はなんていうの?」
「はぁ?……聞いてどうすんだよ、敵に名乗る義理はねぇよ」
「僕は水、天界第七軍・癒しと浄化の部隊。君は?」
赤は剣を肩に担ぎ、冷たい視線を向けた。
「赤だよ。悪魔界の精鋭部隊……破壊の先兵。覚えとけ、俺に殺されるその瞬間にな」
水は微笑んだ。
「じゃあ、君の剣に殺されるまでは……もう少し君を観察してみるよ、“赤”」
「……ったく、天使ってのは変人ばっかかよ」
でも、心のどこかで、赤はその言葉を――心地よいとすら思った。
その戦場から数日後。
天界の会議室では、白が腕を組んでいた。
「……で、水君? このあいだの戦闘、手加減してへんかったか?」
「気のせいだよ、白ちゃん」
「気のせいやったらええけどなぁ。あの赤い悪魔、ちょっと妙に引いとったんや」
そのとき、水の口元に、ふっと笑みが浮かんだ。
「あの子、赤っていうんだ。……憎しみだけの目じゃなかった」
「……水君、まさか――」
白の声がかき消されるように、雲間が光った。
戦争は続いている。だけど、水の中に芽生えた感情は、それだけじゃなかった。
一方、悪魔の拠点。
「アニキ、あの天使の野郎……妙に懐に入ってくるんだけど」
赤がぼそっと呟いた声に、黒と桃が振り返る。
「……天使に気ぃ許すんか、赤」
「気許したわけじゃないよ。。ただ、妙に“透けてんだよ”あいつ」
「は??『透けてる』??」
「腹ん中が、真っ白で……なんか、ムカつくけど見てらんない」
黒が苦笑する。
「気ぃつけぇよ。天使はウラもオモテも見せへんようで、芯が鋼や。お前、殺られるぞ」
赤は肩をすくめて笑った。
「それならそれで構わないよ。どうせ、俺の生き方なんてこんなもんだから」
でも、その“笑い”に、桃は気づいていた。
――赤が、心のどこかで、あの天使を信じたがってると。