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第二章 心を盗む光
あの日以来、赤は妙な違和感を抱いていた。
戦場で刃を交わした天使――水の顔が、何度も脳裏をよぎる。
「……また会ったな」
一週間後、再び戦場で出会ったとき、水は笑っていた。
「君、前よりも少し、迷いが薄くなったね」
「は? 何の話だよ」
「目を見れば、分かるよ。……剣を振る理由に、心が追いついてきた」
赤は思わず舌打ちした。
「、、、俺の心の中まで勝手に入ってくんな」
「だったら、鍵をかけたら?」
水はからかうように笑って、軽やかに跳んだ。
剣がかわされ、槍が止まる。
またも本気の戦いにならない。それが妙に心地悪くて、でも居心地が良い。
「……なぁ、水」
「ん?」
「お前さ、本気で戦争終わらせたいとか思ってんの?」
「もちろん」
即答だった。
「君とこうして話せるなら、きっとこの戦争も“変えられる”と思うんだ」
赤は黙った。
その言葉を、馬鹿だと笑うことができなかった。
天界・休息の泉。
白が、水をじと目で見つめていた。
「なぁなぁ、水君……お前、完全に恋してへんか?」
「え?」
「気づいてへんの? めちゃくちゃ顔、綻んでるで?」
水は頬に手をあてて赤くなった。
「そんな、そんなことは……っ」
白がため息をつく。
「そらまぁ、相手が誰やろうと恋するのは自由やけどな。……ただ、天界と魔界、両方敵に回す覚悟がいるで?」
水は一瞬、黙ったあと、静かに頷いた。
「僕は、彼を信じてみたい。……彼の剣が、誰かを救う日が来るって」
「……水君は強いなぁ、ほんま」
その夜、悪魔の拠点。
赤はアニキ・黒に告げた。
「なぁ、アニキ。……もし戦争が終わったら、何したい?」
黒は煙草の火を見つめながら呟く。
「それが分からんから、まだ剣を握っとるんやろ。……赤、お前は?」
「……あいつと、また戦場以外で会いたい」
「“あいつ”?」
「天使だよ、水」
桃が顔をしかめた。
「赤、何言ってんの。あいつらは敵だよ?」
「敵でも……惹かれるもんは惹かれちゃうんだよ」
黒は目を細めた。
「なら、信じろ。“殺される”覚悟をして、惚れろ」
「……うん、わかってる」
そして赤は、空を見上げた。
そこには、決して交わらぬはずの光――天界の輝きが、淡く瞬いていた。