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「この場をもって婚約を破棄させてもらう!」
華やかな夜会には場違いな大声が響く。
声の主はこのクラリエ王国の王太子、リスターだ。
豪奢なシャンデリアが輝く王城の大広間が、途端にシンと静まり返った。
ドレスを身に纏う女性たちが、扇子で口元を隠しつつ興味津々な視線を向ける。
その中心にはリスターと、彼に庇われるようにして立っているロザリア、そして彼がビシッと指さした先に立つディオナがいる。
着飾った参加者たちは三人を遠巻きに囲み、固唾を呑んで突然の糾弾劇を見守った。
リスターの腕にしがみつくロザリアは男爵家の令嬢だ。
ピンクのゴテゴテしたドレスを纏い、大きな胸をわざとらしくリスターに押し付けてディオナに潤んだ目を向ける。
緩く握った手で口元を隠しているのは、ニヤつくのを抑えきれないのだろうか。
しかしそれすらも、リスターにとっては愛らしい仕草に見えるらしい。
「ロザリア、怖がることはない。私がついているからな」
頬を緩ませロザリアに優しく語りかけたリスターは、再び険しい顔でディオナを睨む。
「理由をお伺いしても?」
ディオナは、アメジストを思わせる紫色の瞳でリスターをまっすぐ睨み返した。
糾弾されてもディオナには後ろめたさなど一切ない。浮気をしているのはリスターのほうだ。
「聖樹のことだと言えばわかるだろう」
ディオナは、目を大きく見開いた。
彼女の反応に、リスターの碧眼がギラリと光る。
「聖樹が枯れてきているではないか、この役立たずめ」
聖樹が弱っているのは誰の目にも明らかな事実だ。
痛いところを突かれたディオナは唇を噛む。
己の力不足に忸怩たる思いを抱えているけれど、この状況で婚約破棄してどうするつもりなのか。
(役立たずと罵られても、それを甘んじて受け入れるしかない。でも――!)
ディオナが反論しようとする前に、リスターが続ける。
「おまえを聖女だと信じて崇めてきた国民を欺いたことは大罪に値する。よってディオナ・スピアーズ、おまえとの婚約を破棄して国外追放処分とする」
(自分の浮気と聖樹を一緒くたにされたくないわ!)
ディオナの目が怒りに染まる。
ここでディオナを追放したら、誰が聖樹を守るのか。
ディオナはこぶしを強く握りしめて言い返した。
「お待ちください。聖女がいなければ聖樹はますます弱ってしまいます!」
しかしリスターは、待ってましたとでも言わんばかりの勝ち誇った笑みを浮かべた。
「では、代わりの聖女がいると言ったら?」
(――――! そんな話は初耳だ)
ディオナは息を呑んだ。
成り行きを見守っていた周囲の参加者たちも、沈黙を破り顔を見合わせてざわめきはじめた。
「どういうことだ?」
「聖女がほかに……?」
驚いて言葉を失うディオナの様子に満足したのか、ロザリアの唇はこぶしでは隠しきれないほど嬉しそうに弧を描いていた。