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大陸の中央付近にあるクラリエ王国。
一年を通して温暖な気候で、郊外には豊かな土壌の田園地帯が広がっている。
西側は高い山脈があり、北、東、南側の隣国との関係は良好で貿易も盛んだ。
この国には代々、聖女が王妃となる習わしがある。
国王は政務を行い、王妃は豊穣の象徴である聖樹を守る。両翼が均衡を保ち、しっかり支え合いながら繁栄し続けてきたのがこのクラリエ王国だ。
聖女の選定は王子が立太子したタイミングで、聖樹の前にて執り行われる。
召集されるのは、王太子と年齢の近い生娘たちだ。
聖女選定のお触れが出ると、国中の貴族が自分の娘を次期王妃にと聖樹の丘へ連れて行く。
まずは貴族の娘たちから。そこで決まらなかった場合は、商家の娘や平民の娘にも選定のチャンスが与えられる。過去には何年も聖女が決まらないこともあったようだ。
ディオナが父親であるスピアーズ伯爵に連れられて聖樹の丘へ赴いたのは、12歳の時だった。
「ついにお触れが出たぞ。いい頃合いだ」
「頑張ってくるのよ!」
母親に期待のこもった目で送り出されたものの、当時のディオナは聖女に興味がなかった。
むしろ、植物や動物など生き物の勉強を専門にやっていきたいと思っていたぐらいだ。
しかしディオナの両親はそうではなかったらしい。
「お世継ぎのリスター殿下が誕生したと聞いた日から子作りに励んだものだ。生まれた子が娘だとわかった瞬間には、おまえの母さんと手を取り合って喜んだことを思い出す」
選定へ向かう馬車の中で父親からそう聞かされたディオナは鼻白んだ。
自分がこの世に生を受けた裏に、そんな打算があったのだと初めて知った瞬間だった。
大事に育ててもらったことへの感謝は当然あるし、親孝行だってしたいと思っていたディオナだ。
だからといって、これまで聖女になるためになにかやってきたわけではない。
貴族学校の同級生の中には、
「わたくし、毎日聖女に選ばれるための修行をしておりますのよ」
と、まるで選ばれて当然といった振る舞いを見せる令嬢もいた。
聖女に選ばれるのはすなわち、この国の王妃となることを意味している。
そんな未来像を想像しようにも、まったくピンとこなかったディオナは、自分が聖女に選定されるはずがないと高をくくっていた。
王国西方にある聖樹の丘。
聖樹は天高く聳え立ち、横に大きく広がった枝には艶やかな黄緑色の葉が茂っている。
幹も枝も葉も全体がキラキラ輝いて見えて、なんて神々しいんだろうかとディオナは子どもながらに感動していた。
じっと聖樹を見上げていた時、1枚の葉が枝から離れてディオナに向かってひらひらと舞い落ちてきた。
その光景に気付いた大人たちからどよめきが上がる。
しかしディオナには、それがなにを意味するのかわからない。
首を傾げながら、まるで自分に向かって落ちてきたかのようなキラキラ光る葉を手のひらで受け止めた。
「ディオナ! でかしたぞ!」
父親のスピアーズ伯爵が、こぶしを上げて喜んでいる。
こんな喜色満面の父を見たのは初めてかもしれない――ディオナは、なにが「でかした」なのかさっぱりわからないまま、手のひらで光り続ける葉を見つめた。
白い神官服を着た男性が歩み寄る。
「あなたには、この葉がどのように見えますか?」
穏やかな口調でディオナに問うてくる。
「ええっと……キラキラ光っていて、温かいです」
思うがままに答えると手のひらの葉がすうっと消えていき、ディオナの右手首に同じ葉の形をした紋様が浮かんだ。
神官が満足げに大きく頷き、高らかに宣言する。
「新たな聖女様が誕生いたしました」と。